理想の結婚

1999/11/09 徳間ホール
オスカー・ワイルドの戯曲を豪華キャストで映画化したラブ・コメディ。
小さな箱に宝石をいっぱい詰めこんだような映画。by K. Hattori


 オスカー・ワイルドの戯曲「理想の夫」を、『オセロ』のオリヴァー・パーカー監督が映画化したラブ・コメディ。主演は『ベスト・フレンズ・ウェディング』のルパート・エヴェレット、『エリザベス』のケイト・ブランシェット、『グッド・ウィル・ハンティング』のミニー・ドライヴァー、『ビッグ・リボウスキ』のジュリアン・ムーアなど。前世紀末のイギリス社交界を舞台に、丁々発止の恋と陰謀の駆け引きが繰り広げられる物語。

 エヴェレットはともかくとして、オーストラリア人のブランシェットやアメリカ人のドライヴァーとムーアにイギリスの上流階級が演じられるのかはちょっと不安でしたが、映画が始まった途端にそんな不安は吹き飛んでしまった。原作は戯曲ですが、映画の序盤はそれをうまく屋外に持ち出して映画ならではの空間的な広がりを作り、後半では一転室内劇に徹して舞台劇と同じぐらい濃密な芝居のコクを生み出している。クスクス笑ってしまうところがあちこちにあるし、ハラハラドキドキするスリルもあり、最後は見事なハッピーエンドに拍手。イギリス流(ワイルド流か?)の皮肉と意地悪のスパイスがたっぷり利かせてある物語ですが、そのスパイス臭が鼻につくことなく上品にまとめられている。映画を観終わった後は、きっと誰もがニコニコしてしまうことでしょう。

 主人公アーサー・ゴーリング卿は、30代半ばだというのに妻もめとらず気ままな独身生活を謳歌している。父親はそんな息子に「早く結婚しろ!」とハッパをかけるが、アーサーはのらりくらりと結論を先送り。そんな彼には、将来を嘱望されている若手政治家ロバート・チルターンという親友がいる。チルターン夫人もアーサーの幼なじみ。夫妻は社交界の花形で、自他共に認める幸せなカップルだ。ところがそんな彼らのもとに、遠くウィーンから暗雲が立ちこめてくる。ロバートが若い頃に犯した過ちの証拠を持って、悪名高いチーヴリー夫人がやってきたのだ。彼女は自分が投資している運河計画を議会で後押しするようにと、証拠の手紙を使ってロバートを脅迫する。チーヴリー夫人の登場に驚いたのはアーサーも同じだった。じつはふたりは、かつて短い間だけ婚約していたことがあるのだ……。

 アーサーが誰と結婚するかというラブコメ要素に、政治家の脅迫というサスペンス、さらには過去が暴かれたことで壊れてしまったチルターン夫妻の関係をどう修復するかという話までからんでくる物語。話の先読みができないわけではないけれど、先が読めても面白いのは、台詞の掛け合いが面白いことと、役者の芝居がじつにうまいため。どんな小さなシーンにもピンと張りつめた緊張感があって、それが少しもダレてこない。血沸き肉踊る興奮はありませんが、映画の冒頭からラストまで、物語には一定のリズムとハーモニーがある。ハリウッドの大作映画が大がかりな交響曲だとすれば、これは小編成の室内楽のような映画です。アンサンブルの妙技に酔いしれながら、1時間40分がたっぷり楽しめます。

(原題:AN IDEAL HUSBAND)


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