ツイン・フォールズ・アイダホ
(原題)

1999/11/02 ル・シネマ2
(第12回東京国際映画祭)
シャム双生児と娼婦の交流と淡い恋を描くヒューマン・ドラマ。
双子の兄弟が脚本・主演・監督を兼ねている。by K. Hattori


 萩尾望都の短篇コミック「半神」は、生まれながらに体の一部がくっついた双子の姉妹(シャム双生児)をテーマにした心理ドラマ。野田秀樹が舞台作品にしたので、タイトルぐらいは知っている人も多いと思う。家族というのは親しみを感じる反面わずらわしさも多いものだが、シャム双生児は「切っても切れない肉親の絆」を文字通り肉体で象徴しているためか、多くの人々の興味を引くらしい。単なる奇形というわけではなく、人々はそこに精神的な何かを感じるのだろう。映画『ツイン・ホールズ・アイダホ』は、やはりシャム双生児をテーマにしている。互いに葛藤がありながらもそれを乗り越え、微妙に精神のバランスを保ちながら暮らしている双子の兄弟が、ひとりの女性の登場によって大きく関係を変えてゆくという筋立ては、クローネンバーグの『戦慄の絆』に似ているかもしれない。作品のタッチはグロテスクなクロネンバーグより、萩尾望都だと思うけど……。

 脚本・主演はマイケルとマークのポーリッシュ兄弟。ふたりは実際に双子です。(シャム双生児ではない。)監督は弟のマイケル・ポーリッシュ。彼はこの映画が劇場用長編映画デビュー作。映画の中では兄のマークが積極的なブレイクを演じ、弟のマイケルが病弱なフランシスを演じている。ヒロインの娼婦ペニーを演じているのはミシエル・ヒックス。シャム双生児と娼婦の恋というセンセーショナルな素材を扱いながら、演出は奇をてらわずオーソドックスに淡々と物語を紡いでゆく。話だけだともっと感動的になりそうなものだけど、意外なほど平然と映画が観られてしまうのが欠点といえば欠点か。

 主人公のフォールズ兄弟があまり感情を表に出さず、物静かなキャラクターであることが、この映画の雰囲気を決定付けていると思う。兄弟の葛藤をもっと表面に出せば物語はドラマチックになるのだろうが、20年も離れることなく肉体と生活を共有してきた兄弟が、そう簡単に心理的葛藤を表に出さないというのは考えた末の決定だろう。些細なことで葛藤が起こっていては、互いにストレスがかかってしょうがない。ふたりはトラブルのもとになりそうな事柄を巧妙に避けながら、ひっそりと生きてきたに違いない。しかしここに来て、目の前には避けがたいトラブルが待ち構えていた。ひとつはペニーの存在であり、もっと大きなものは、フランシスの体がひどく弱り、余命いくばくもないということ。

 登場人物の全員があまりにも無口であるため、ドラマを盛り上げる「きっかけ」が作れなくなっているようにも感じた。主人公たち3人のキャラクターはともかくとして、脇役にひとりでも面白い人物がいれば、物語り全体がふっくらとした印象になったと思うのですが……。ペニーの友人である医者や、ホテルの隣室にいた黒人の牧師(?)など、エピソードを付け足していくことで魅力的な脇役に育つ可能性があるだけにもったいない。監督たちの欲のなさだろうか。面白さを追求するために、もっと貪欲になってもいいと思うんだけどなぁ。

(原題:Twin Falls Idaho)


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