虹鱒

1999/11/01 ル・シネマ2
(第12回東京国際映画祭)
山奥の友人を訪ねて都会暮らしの垢を落とそうとしたのに……。
パク・ジョンウォン監督の心理スリラー映画。by K. Hattori


 水槽の中の虹鱒は、過度のストレスがかかると水槽の壁に何度も頭をぶつけて死んでしまうという。この映画は、山奥に住む友人を訪ねた都会の住人たちがトラブルに巻き込まれて孤立し、人間としてもっとも浅ましい姿をさらすという心理スリラー。人間関係の重圧や葛藤から少しずつ虚飾の皮がはがされていく登場人物たちの姿を通して、人間がいざとなったらいかに残酷なものなのか、嫉妬や虚栄心がいかに醜いものなのかを暴いていく。ストーリーはよく練られていると思うけど、映画のどこにも救いがないので、観終わった後はいや〜な気分になること請け合い。描かれている人間像に「人間なんてこんなもんなんだろうな」と肯諾しつつ、それでもどこかに希望や救いを求める思う僕は甘いのでしょうか。

 人里離れた山奥で虹鱒の養殖を営んでいる男の友人たちが、車で彼のもとを訪ねるところから物語が始まる。車に乗っているのは学生時代の友人で、今ではソウルで銀行勤めをしている男とその妻、妻の妹、焼き肉屋のチェーン店を経営している夫婦の5人。彼らにとって養魚場の男はかつての無二の親友だが、同時に今は世捨て人の変人だ。山奥の小さな家で、旧友たちは再会を喜び合う。ところがそこに傍若無人なハンターたちが現れて、都会暮らしの人々はカルチャーショックを受けてしまう。彼らはそのストレスを、近くで犬を飼っている少年にぶつける。養魚場の男は無口だが、じつは彼は銀行員の妻となった女と学生時代に恋人同士で、今でも彼女のことが忘れられないでいる。そんな気持ちを知って「忘れてほしい」と言いながらも、彼に抱きしめられると唇を許してしまう女。それを物陰から見つめている妹。ハンターと一時の情事にふける焼き肉屋の女房。こうして水面かで、人間関係に不穏な空気が流れはじめる……。

 日本人である僕から観ると、登場人物たちはみんな我が強すぎてうんざりしてしまう。この人たちには「まあまあ穏便に」という気持ちがまったくないのだろうか。ひたすら都会人にちょっかいを出すハンターたちは論外だが、それに卑屈な笑顔で応対する焼き肉屋や、明らかに不満そうな顔を見せる銀行員、その妻たちも自分の言いたいことをかなりはっきり主張する。このドラマをそのまま日本に移植しても、これと同じ展開には絶対にならないと思うのだ。そんな些細なところで、民族性や国民性の違いを感じてしまう。僕が銀行員の義妹や養魚場の男に好感を持つのは、彼らがトラブルを回避するために穏便な行動をとろうとするからかもしれない。

 それにしても、この映画の主人公たちは本音と建て前の乖離が激しすぎる。養魚場の男を裏ではさんざん変人あつかいしているくせに、面と向かっては無二の親友のように振る舞う。こうした傾向は世界中のどこにでもあると思うけど、日本人なら陰口に対して「そんな陰口は言うべきじゃない」という一種の心理的な規制が働くと思う。これが日本人と韓国人の差なのかな。映画が意図的にそれを強調している面もあるとは思うけど……。

(英題:Rainbow Trout)


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