トゥルー・クライム

1999/10/29 ワーナー試写室
死刑が迫る囚人の無実をイーストウッド扮する記者が証明する。
いい映画なのに、公開規模が小さすぎる。by K. Hattori


 クリント・イーストウッドの監督・主演最新作で、日本では来年のお正月映画。とは言いながら、公開劇場が銀座シネパトスというのはひどい。パトスがことさらひどい劇場だと言いたくはありませんが、ここは都内の劇場格付けで言えば、下から数えて何番目という映画館です。そこがイーストウッド映画の封切館になるとは。最近では都内の劇場不足のせいか、パトスで封切られる映画も多い。でもこれは、アメリカのテレビ映画やインディーズ映画、インド映画とかじゃないんです。大メジャーのワーナーが配給し、アカデミー監督のイーストウッドが作った新作なんです。この映画は傑作『目撃』以来久しぶりのイーストウッド主演作だし、映画としての出来も決して悪くはない。にも関わらずこんな仕打ちを受けるのは、ひとえに過去の実績ゆえでしょう。『目撃』がコケ、『真夜中のサバナ』も公開規模を大幅縮小。その延長上にあるのが、『トゥルー・クライム』のパトス行きです。この映画が大きな画面で見られないなんて、日本の映画環境は本当に愚劣だと思ってしまう。

 ある雨の夜、若い女性新聞記者が交通事故死した。彼女の取材を引き継いだのは、元アル中で女癖の悪いベテラン記者スティーブ・エベレット。権力に楯突き、上司や同僚の制止も振り切って独自取材の記事をまとめる態度は「反骨精神」と言えなくもないが、一方でそれは独善的なものでもあり、社会性や協調性のなさでもある。スティーブは死んだ女性記者から引き継いだ取材メモに目を通した途端、その死刑囚が無実であることを直感する。上司や同僚は彼の独走を警戒するが、スティーブは自分の鼻を信じて取材を続行。やがて冤罪という直感は確信に変わる。だが裁判結果を覆す決定的な証拠も証人もない。すべては彼の勘と推論にすぎないのだ。死刑執行まで12時間足らず。スティーブは死刑囚を救い、大スクープをものにすることが出来るのか……。

 映画の冒頭、バーで女を口説いている場面からイーストウッド節が炸裂。この数分間の導入部だけで、主人公がベテランの新聞記者で、上司のウケはともかく同僚たちからは一目置かれていること、女癖が悪くて誰彼構わず手を出すくせに、結婚して家庭を持っていること、現在禁酒中であることなどがわかってしまう。台詞ですべてを説明してしまう脚本ですが、それを説明調に感じさせないところが監督の腕であり、俳優の芝居というもの。この映画には派手なアクションもSFXもない。この映画を構成しているのは、すべてがアナログです。脚本と芝居と演出で、すべてを見せてしまう。アクションやSFXというのは、映画の味付けでしかないのです。この映画には、素材そのものの力強さがある。ゴテゴテと派手な味付けをする必要は最初からないのです。

 相変わらずいい俳優を使ってます。ジェイムズ・ウッズが編集長役で登場しますが、『将軍の娘/エリザベス・キャンベル』の10倍はいい芝居をしている。まったく、なんでこの映画がシネパトスなんだ〜!

(原題:True Crime)


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