プリズナー・オブ・ラブ

1999/10/29 TCC試写室
ナオミ・キャンベルの初主演映画は誘拐のからんだラブ・ストーリー。
細部がいい加減では物語に迫力が生まれない。by K. Hattori


 スーパーモデルのナオミ・キャンベル初主演作というのが本作のウリだが、実際問題としてそれ以外にセールスポイントがあまりない映画。内容はそこそこよくできたサスペンス・ラブ・ストーリーですが、あっと驚くような展開はどこにもないし、映画を観終わった後も印象に残った場面はあまりない。ナオミ・キャンベル自身も、あまり魅力的に撮れてなかったしなぁ……。

 表向きの顔は自動車修理工場の経営者。裏では金貸しと強引な取り立てで食っている小さなギャング組織がある。ボスは叔父で、手下は甥っ子たち。親族経営だが、仕事には意外なほどシビアなのだ。主人公ジョニーはボスの命令で借金の取り立てに出かけるが、一緒に出かけた仲間は相手を殴り殺してしまう。しかも一部始終を目撃していた女まで現れる。ボスは不始末をした手下を殺し、ジョニーには証人である女の抹殺を命じる。ところがジョニーは目撃者となったトレイシーという女に、一目惚れの恋をしていたのだ。ジョニーは彼女を殺したくない。でも彼女を殺さなければ自分が殺される。思い詰めたジョニーはトレイシーを誘拐して古い倉庫に閉じこめ、ボスに「女は殺した」と報告するのだが……。

 導入部からしてあまり上手とは言えない映画です。登場した3人のチンピラたちが、その日行わなければない仕事やボスの人柄について話すという、およそ芸のない物語の解説。ここはもっと短い時間で、明快な説明をしなければならない場面でしょう。フラッシュでボスの命令を挿入してもいいし、車の中で人を待っている3人の姿からスタートし、ターゲットの男が現れた瞬間に、少し時間を前に戻してもいい。ここで必要なのは、3人が借金の取り立てに来ているということ、ボスからは相手を殺すなと厳しく言いつけられていることの2点。3人の関係や性格付けも行っておけば完璧。簡単なことですが、この映画はその簡単なことが出来ていない。

 主人公がトレイシーを倉庫に閉じこめた後の描写は、ディテールが甘くてリアリティが感じられない。ここは緻密な描写がほしい場面なのに……。倉庫内での食事の問題、トイレの問題、どうやって寝るのか、どうやって着替えるのか、ゴミをどこに出すのか、水道はどうなっているのか。説明されている部分もあるが、説明のまったくないものもある。トレイシーが足に鎖をつけたままジーンズに着替えるという芸当を見せるが、これは撮影している段階で不可能であることに気づいたはず。気づいているのにそれを押し通しているということは、こうした細部をいい加減に考えている証拠です。

 ジョニーが最初からトレイシーにすべて正直に話していれば、こんなにややこしいことにはならず、ふたりでよりよい問題の解決方法を考えられたはずです。ジョニーが彼女に事情を話せない理由をひとつ考えておけば、ここはうまくクリアできたんです。話のアイデアは面白くても、細部の詰めが甘いという典型的な例。映画の神は細部に宿る。ディテールのない映画はダメですね。

(原題:PRISONER OF LOVE)


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