遠い空の向こうに

1999/10/28 UIP試写室
'50年代にロケットの研究をしていた高校生たちの実話。
父と子の葛藤と和解についホロリとくる。by K. Hattori


 1957年10月4日。ソ連は人類史上初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功し、宇宙への旅に向けた第一歩を踏み出した。宇宙開発競争で後れをとったアメリカは、これに大きな衝撃を受ける。当時の宇宙開発は、そのまま軍事開発とイコールだったからだ。スプートニク・ショックは、アメリカがソ連に対し軍事的な劣勢に立っていることの証明だった。だがそんな政治的な意味合いとはまったく別の場所で、スプートニクに大きな衝撃を受ける人々がいる。ウェスト・ヴァージニア州コールウッドは、炭坑しか産業のない小さな田舎町。高校生のホーマー・ヒッカムは、何の取り柄もない平凡な少年に過ぎなかった。父親は炭坑の監督。高校の花形フットボール選手である兄に比べて、ホーマーはスポーツが出来るわけでもなく、勉強が出来るわけでもない。高校を卒業したら、否応なしに地元の炭坑で働くことになるだろう。誰もがそう考えていた。あの日、10月の空に、光り輝くスプートニクを見るまでは……。

 スプートニクを見てロケット作りに取り憑かれた、4人の高校生たちの物語。これは実話がもとになっている。原作者のホーマー・ヒッカム・ジュニアは、ロケット好きが高じて後にNASAで働くことになった。この映画は彼の書いた自伝小説「ロケット・ボーイズ」を、『ジュマンジ』『ミクロキッズ』のジョー・ジョンストン監督が映画化したものだ。これは田舎の高校生たちが自分の力で町から巣立って行く成長譚であり、何も持たない者たちが自らの努力で栄冠を手にするアメリカン・ドリームであり、異なる個性がぶつかり合いながら絆を深める友情のドラマであり、父と息子の葛藤と和解を描いた家族の物語でもある。時代は古き良きアメリカがまだ生きていた'50年代。人々が未来に対して明るい夢を見ていた時代。今日よりは明日の方が必ず豊かになると信じられていた時代。主人公たちが挑むのは、まがりなりにも「宇宙開発」とつながりのあるロケット研究。この映画に一番近いのは、アメリカの初期宇宙開発史を描いた『ライト・スタッフ』だろう。主人公たちロケット・ボーイズ4人組も、宇宙に純粋な夢を馳せるライト・スタッフの持ち主たちなのだ。

 ストーリーを引っ張るのは、少年たちのロケット作り。失敗を繰り返しながら新しい知識を仕込み、ついに彼らはロケット作りに成功。大勢の野次馬が集まる中、ロケット発射が初めて成功する場面には感激する。そんなストーリーに深みを与えているのが、主人公ホーマーと父親の葛藤を中心にした家族のドラマ。息子のしていることが理解できず、炭坑夫の仕事を継いでほしいと願う父。父の思いを知りながらもそれに反発し、何とか自分の夢を認めてほしいと願う息子。こうした父と息子の関係は、どんな時代にも存在するものだと思う。最後にふたりが和解する場面では、やはり涙がこぼれた。

 アメリカの若手俳優を売り出す青春映画ですが、これは父親世代の人たちにも観てほしい映画です。

(原題:October Sky)


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