シャドラック

1999/10/20 シネカノン試写室
ウィリアム・スタイロンの小説を、娘のスザンナ・スタイロンが映画化。
'30年代の南部を舞台にしたヒューマン・ドラマ。by K. Hattori


 東京国際映画祭の協賛企画「カネボウ国際女性映画週間/映像で女性が輝くとき」で上映される作品で、日本での配給や劇場公開は未定。ハーヴェイ・カイテルやアンディ・マクドウェルなど、ハリウッドのメジャー作品で主演クラスの俳優たちが出演しているし、内容的にもまずまずの作品なので、日本でも買い手が付いて単館系で公開されるかもしれません。ただ僕自身は「公開されるかも」と思う程度で、「公開されればいいのに」とまで積極的な肩入れはしませんけどね……。休日の昼間に、NHKでテレビ放送するのが似合うような映画かな。

 原作は「ソフィーの選択」で知られる作家ウィリアム・スタイロン。これが長編映画デビュー作となるスザンナ・スタイロン監督は、原作者の娘だそうです。物語の舞台は、1935年のアメリカ南部ヴァージニア州。この時代は世界的な不況の真っ最中で、アメリカではニューディール政策が始まったところ。先祖は南部の大地主だったが、南北戦争以降はすっかり落ちぶれて貧乏暮らしを余儀なくされているヴァーノン一家のもとに、シャドラックと名乗る自称99歳の黒人がやってくる。彼はヴァーノン一家の農場で生まれた元奴隷で、15の時に別の土地に売られ、そこで解放されて自分の一家を構えた。長い長い年月がたち、自分の死期が迫っていることを感じたシャドラックは、生まれ故郷に戻って先祖が眠るヴァーノン家の土地に葬られたいと願うのだ。

 はるばる1000キロの道のりをひとりで旅してきたこの孤独な老人の願いを聞き届けるため、ヴァーノン家は農場のあった地所に向かう。戦争で屋敷は焼け落ち、広大なタバコ畑も今は草ぼうぼうで、今はわずかに植えられたトウモロコシがある程度。やがてシャドラックは息を引き取るが、州法の規定で遺体を私有地に葬ることは禁止されているという。ヴァーノン一家はシャドラックの遺志を果たせないことを悔やむと共に、埋葬のための費用に頭を悩ませることになる……。

 南部の風景や人物の描写など、細部の描写はとてもよくできているのに、物語の足腰がちょっと弱い映画です。個々のエピソードはとても面白いし感動的なのに、それが束になって大きな感動になっていない。このルーズな感じがいかにも南部風ですが、これは意図したものなのか、それとも監督の手腕不足でこうなってしまったのか不明。序盤中盤まではこれでいいとしても、終盤でドラマをきちんと組み立てて盛り上げていれば、これより何倍も感動的な映画になったと思うのですが。

 見ず知らずの黒人が訪ねてきたとき、多少迷惑に感じながらも彼の望みを叶えてやろうとする一家の姿には、素直に感動してしまいます。99歳のシャドラックは耳が遠い、言葉も聞き取りにくい、しかも汚いし臭い。でもヴァーノン一家はそんなシャドラックの最後を看取ってやる。現代では絶対にあり得ないような、ノスタルジックなファンタジーです。陳腐な言い方ですが「貧しくても心が豊かな」という言葉が浮かんできます。

(原題:SHADRACH)


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