キス・オア・キル

1999/10/13 映画美学校試写室
逃亡中の犯罪者カップルが殺人事件に巻き込まれる。
オーストラリアで作られた秀作サスペンス。by K. Hattori


 幼い少女の目の前で母親が焼き殺されるという、衝撃的なオープニングで始まるサスペンス映画。物語の主人公は、睡眠薬を使った昏睡強盗でホテルを荒らし回っている若いカップルのニッキとアル。ある日いつものようにニッキが出張中のビジネスマンをつかまえ、部屋に入って睡眠薬入りのシャンパンで乾杯。数分後に男が昏倒すると、部屋の外で待ちかまえていたアルと共に荷物を物色し始めた。ところがどこをどう間違ったのか、睡眠薬を飲んだ男の心臓が止まっている。奪ったスーツケースの中からは、元ラグビー選手でスポーツ界の名士でもあるジッパーが、少年をレイプするビデオが出てきた。死んだ男はこのビデオを使って、実業家として成功しているジッパーを恐喝するつもりだったらしい。やがてホテルで死体が発見され、警察がニッキたちを追い始める。ジッパーもビデオを奪われたことに気づき、警察に先回りしてふたりを捕らえようとするのだが……。

 『俺たちに明日はない』『地獄の逃避行』『ナチュラル・ボーン・キラーズ』などと同じ、逃走するカップルを主人公にした物語。若いカップルがたまたま手にした危険なブツによって、警察とそれ以外の人間の両方に追われるという設定や、主人公たちが基本的には善良な人間だという部分は、『トゥルウー・ロマンス』に似ているかもしれない。しかしこの映画は、主人公たちの「逃亡」が物語の中心ではない。一方に逃亡劇という筋立てを残しながら、一方に新たな殺人事件の発生というサスペンスを作り出す。ニッキとアルが行く先々で、次々に生まれる新たな犠牲者。ニッキにもアルにも、殺した記憶がない。だがニッキは夜な夜な夢遊病の発作を起こしている。アルは彼女が無意識のうちに人を殺しているらしいと考えるのだが、はたしてそれは正しいのか?

 監督・脚本・製作は、『サンドラ・ブロックの恋する泥棒』でハリウッドに進出したビル・ベネット。彼はハリウッドの水が合わず、この1作だけでオーストラリアに戻ってきてしまう。そこで撮ったのが、この『キス・オア・キル』というわけだ。この映画は一昨年のオーストラリア・アカデミー賞で、作品賞・監督賞・助演男優賞など5部門を受賞している。登場人物が少なく、日本人に馴染みの俳優がひとりも出演しておらず、上映時間が1時間37分という小粒の映画だが、オープニングで生まれたサスペンスは最後まで持続する。

 登場する人物がみんな個性的で、エキセントリックに感じるほど。観客に一番近いのは、主人公のひとりアルだろう。彼は何かあるとカッとなる以外、特におかしなところはない。観客が感情移入するには、まさに打ってつけの人物。観客はアルがニッキの夢遊病を怪しく思うのも当然だと思うし、彼がどんなときもニッキを見捨てないのを好ましく思うだろう。ふたり組の刑事も面白い。ふたりが食事をしながら食堂で交わす会話に、思わずニヤニヤしない人はいないと思う。この程度の規模の映画なら、日本でも撮れると思うんだけどなぁ……。

(原題:KISS OR KILL)


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