新・極道渡世の素敵な面々
きりとりブルース

1999/10/06 東映第2試写室
貸金回収のため劇団を訪れたヤクザが劇団の女優に恋をした。
若手委注目株・北村一輝主演のヤクザ映画。by K. Hattori


 『日本黒社会/LEY LINES』『皆月』などで若手注目株にのし上がってきた北村一輝が、ベテランの和泉聖治監督と組んだチンピラヤクザ映画。持ち前の凄味と性根を見込まれてヤクザ組織の舎弟になった一郎は、人の好さがたたって1年たってもヤクザ稼業が身に付かない。とうとう若頭から1千万円の不良債権回収を言いつけられ、これが回収できなければヤクザをやめろと引導を渡される。回収先は小さな劇団を主宰する役者の男。出かけてみれば、そこには別のヤクザが追い込みをかけている有様。次の劇場公演が成功しない限り、借りた金の返済はおぼつかないという。やがて一郎は劇団の若手女優サキと恋に落ち、貸付金回収のために、どういうわけか公演の切符売りまで手伝わされるハメになる……。

 キリトリ(集金)に出たヤクザが、相手のペースにはまって「ミイラ取りがミイラになる」のが、この物語の面白さだと思う。顔と口先で凄んで見せても、相手には心の内を見透かされ、人の好さからどうしても強い態度に出られない主人公。弱気なわけではない。意気地がないわけでもない。ましてや頭が悪いわけでは決してない。ただこの男は優しいのです。善人なのです。基本的には害のない男なのです。それがヤクザというまったく似合わない世界に飛び込んで、何とか一人前になろうとあがいてみせる。でもあがけばあがくほど、彼がヤクザ向きの人間でないことがますます明白になってしまう……。おそらくこれは、そんな話でしょう。

 この映画はベテランの和泉監督らしく、きちんとまとまってはいる。ところが突出した面白さがひとつもないのです。物語のキーになる人物は何人かいる。ひとりは小松政夫が演じている叔父貴分。この男も人の好さがたたって、ヤクザとしては二流に甘んじている男です。舎弟らしい人間はひとりもいない。いつもひとりでブラブラして、女に食わせてもらっているような男。この男は主人公を見て、若い頃の自分を見ているような気がしている。男の女房も同意見で、何とかして主人公を一人前にしてやろうと後押ししている。もうひとり、木下ほうか演ずる謎の易者が登場するが、この男も元はヤクザだったらしい。この易者も、人の好さが災いしてヤクザ稼業から足を洗ったのかもしれません。宙ぶらりんの主人公をはさんで、そのままヤクザを続けたなれの果てを小松政夫が演じ、ヤクザから脱落したなれの果てを木下ほうかが演じているわけです。こうした人物配置が、おそらくは物語のテーマに深く関わってくるのだと思う。

 ところがこの映画では、小松政夫も木下ほうかも主人公の未来を写し出す分身ではなく、単なる脇役になっている。主人公と劇団員のロマンスや組同士の抗争事件に大きくスポットが当てられ、本来ならもっと大きく描かなければならない小松政夫と木下ほうかのエピソードが後退している。ふたりがもっと前に出てくれば、この映画はもっと芯の太いドラマになったと思うし、クライマックスも今以上に盛り上がったと思うのですが……。


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