古川タクのアニメおもちゃ箱

1999/09/17 ソニーハイビジョンシアター
最新作『上京物語』とそれ以前の作品11本をまとめた特集上映。
試写ではそのうち5本を上映した。どれも面白い。by K. Hattori


 アニメーターの古川タクが、9年ぶりに新作『上京物語』を作ったことを受けて開催される特集上映。劇場にかかるのは『ヘッド・スプーン』『美しい星』『驚き盤』『コーヒー・ブレイク』『モーション・ルミネ』『コミックス』『スピード』『スリーピー』『マック・ザ・ムービー』『カリグラフィー』『ターザン』『上京物語』の12本。今回試写で観たのは、そのうちの5本だ。どうせなら全部観せてくれればいいのに……。

 新作『上京物語』は小津安二郎の名作『東京物語』の現代版とでも言うべき作品で、瀬戸内の島から子供たちのいる東京へやってきた老夫婦の姿を、幾つかのエピソードに仕立てて描いたもの。他の作品が3分から6分の短編であるのに対し、この新作は堂々13分の大長編。またこの作品は、すべてをコンピュータ上で作ったフル・デジタル・アニメーションでもある。と言っても、これはCGではない。作者曰く『ほんとうは、まだフィルムで作りたい。しかし今回のような絵作りで、ほとんど全部のコマにエアブラシをかけるなんて作業を、セル1枚ずつやってもらうとなると、コストがべらぼうにかかるし、だいたい、巷の撮影スタジオは今や殆ど、ディジタル収録に転向しちゃってフィルムで作りたくても作れなくなってきた』のだそうです。絵はほとんどがモノクロの線画で、そこにグレーを主体とした色が塗られている。時々色味が現れるのが、抜群の効果を生みだしています。手書き風でもないんですが、ものすごく手作りの絵を感じさせる作風。『ホーホケキョ となりの山田くん』よりこの映画の方が面白いよ。

 『驚き盤』は円盤の上に連続した絵を描いてそれを回転させるという、19世紀のオモチャのこと。この映画では、それをフィルムの上で再現している。『コーヒー・ブレイク』は、仕事の合間に口に運んだ1杯のコーヒーによって世界が激変するという単純なアイデア。無数の物体がコーヒーを飲む人物を取り囲んで飛び回る場面は壮観。『スピード』『ターザン』あたりは寝不足がたたって少しウトウトしてしまった。どれも台詞は最小限。音楽に合わせて画面が次々に変容して行くのが、これらの作品の面白さだと思う。『驚き盤』から観始めたせいかもしれないが、アニメの基本はまず「絵が動く」という驚きにあるのだと痛感させられる。

 短編アニメというのは、作られているのは知っていても、なかなか観る機会のないジャンルの映画だ。ジャパニメーションと呼ばれて脚光を浴びるのは、テレビアニメや劇場用長編アニメばかり。昔は劇場映画の付録として短編アニメの上映があったりしたわけですが、今はそうした流通ルートもなくなっている。世界各地で開かれる映画祭などに出品して高い評価を得たとしても、それが一般の劇場で上映されることはない。そんなわけで、こうした機会に短編アニメ映画をまとめて観られるのはありがたい。試写にかからなかった作品も観てみたいので、時間があれば劇場にも足を運びたいのだが……。


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