肉屋
THE BUTCHER

1999/09/17 サンプルビデオ
アリーナ・レイエスの世界的ベストセラー小説を映画化。
ヒロイン役のアルバ・ピアレッティが最高。by K. Hattori


 アリーナ・レイエスの世界的なベストセラー小説「肉屋」を、イタリアで映画化したエロティック・ストーリー。原作はフランスで出版されるや大絶賛され、世界中の言葉に翻訳された。(日本でも二見書房から翻訳が出版されている。)レイエスと「肉屋」はドキュメンタリー映画『エロティカ』でも紹介され、作者本人と小説のイメージ映像が登場していた。官能的な文学作品について語るとき、レイエスの名は必ず出てくるものらしい。

 主人公は美術館で働くアリーナという女性。彼女の夫は世界的に高名なオーケストラ指揮者。夫婦仲は睦まじく、家庭に何の問題も不満もない充実した日々。強いてあげれば、夫婦の間に子供ができないのが悩みの種だが、これも近々養子をもらうことで解決しそうだ。夫が長期の演奏旅行で家を留守にしている時、アリーナは貧血で倒れてしまう。ベジタリアンのアリーナだったが、医者から食餌療法として肉食を勧められたため、毎日のように近所の肉屋でステーキ肉を買い求めるようになる。肉屋の主人ブルーノは粗野な中年男だが、アリーナは少しずつ彼に惹かれて行く。やがて、彼との情事が始まった。

 僕は原作を読んでいないが、映画『エロティカ』によれば、小説「肉屋」は肉屋が肉を切り裂く描写を官能的に描いた小説だという。肉屋の手の中で思うがままに切り刻まれる肉を、ヒロインの肉体とオーバーラップさせているわけだ。しかし映画ではそうした「肉=女性の肉体」というダブル・ミーニングがうまく機能せず、インテリ女性と粗野な労働者階級の男の情事というありきたりなプロットに落ち着いてしまった。これではいかにも安っぽすぎる。ベジタリアンが肉を食べるとか、食肉保存用の冷蔵庫での肉屋夫婦がセックスをするとか、映画の中にも何ヶ所か「肉=女性の肉体」を暗示させる場面があるのだから、それをもっと強調した方が物語のテーマは明確になったのではないだろうか。もっとも、そうしたテーマを映画には持ち込むつもりがなかった可能性もある。ベストセラーの映画化だけが狙いだったのかも。

 ヒロインを演じているのは、準ミス・ユニバース出身のアルバ・ピアレッティ。この映画の魅力は、ひとえに彼女の魅力と言ってよいだろう。クールなまなざしに、少し厚ぼったく官能的な唇。黒い髪に太めの眉毛がキリリと通る、意志の強そうな表情。そんな彼女が、体の奥から湧き出る官能の泉に我を忘れ、動物のように声を上げながら表情を崩す色っぽさ。スタイルも抜群で、肌はピンと張りつめ、弾力のありそうな胸もボリュームたっぷり。その体が男の体の下に組み敷かれ、すらりと伸びた長い手足が男の肩や腰に絡みつき、快感を100%受け止めようとしている様子は生唾ものです。

 アダルトビデオやポルノ映画ではないので、セックスシーンがあると言っても上品なもの。この手の文芸ポルノだったら、『愛人/ラ・マン』の方がよくできてたと思うけどね。ちなみに、肉屋を演じているのは『アンダーグラウンド』のミキ・マロノヴィック。う〜む。

(原題:IL MACELLAIO)


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