LISA
リサ

1999/08/25 TCC試写室
登山が趣味の女性と若いピアニストが恋に落ちる。
だが彼女はHIVに感染していた……。by K. Hattori


 マッターホルンの登攀で始まり、同じくマッターホルンの登攀で幕を閉じるベルギーとスイス合作の恋愛映画。主人公リサは、登山が趣味のクラブ経営者。マッターホルンから帰ったところで、同棲中の恋人ロブが浮気している現場に出くわしてしまう。「私が戻ってくる前に部屋を出ていって!」と宣言したリサが向かったのは、近くにある高層ホテル。嫌なことを忘れるために彼女はホテルの外壁を屋上目指して登りはじめるが、程なくして警官がすっ飛んできた。屋上にいては捕まってしまうと考えたリサは、ザイルを伝って外壁を下に降りはじめるが、上から警官にザイルを引っ張られて途中で立ち往生。ホテル宿泊客の若い男に窓を開けてもらい、なんとか室内に逃げ込む。リサを助けたのは、将来を嘱望されている若いピアニストのサムだった……。

 監督のヤン・ケイミューレンは、ベルギーのテレビ局で長年ドラマの演出家をしている人だが、この『LISA』が映画監督としてのデビュー作になる。もともとは今から10年前に、エイズをテーマにした作品として企画されたもの。最初の脚本ではエイズという病気の暗く陰鬱な面が大きくクローズアップされ、登場人物のひとりが死ぬ場面もあったという。その後脚本は何度も書き直され、完成したこの映画からはエイズという要素が大きく後退しています。10年前には「HIV感染=エイズ=死の病」だったものが、この映画が作られた時点では「HIV感染」と「エイズ」をイコールで結べないぐらいにまで治療法が進化したのです。この映画は今から3年前の映画ですが、今はもっと治療法が進んでいる(と思う)。ただし、HIV感染が人間の意識や生活をすべて変えてしまうのは事実だと思う。この映画の主人公もHIVに感染した後は、好きな登山を好きなだけ楽しむというわけには行かなくなってしまうでしょう。

 エイズという病気については、最初は同性愛者や麻薬中毒患者だけがかかる特殊な病気と認識されていて、その次には性的に放縦な生活をしている人もかかる病気だとされた。血友病患者や手術時の輸血で感染する人もいたけれど、それは罪なく感染した不幸な人たちであり、それ以外の性交渉で感染した人たちは自業自得だという風潮があった。でもこの映画の主人公は、恋人との同棲というごく日常的な生活レベルで感染してしまう。こうなるともう、不用心だとか自業自得だとか責められない。頭では責められないとわかっていても、新しい恋人のサムはそれを理由にリサを責める。これは病気という対象を通して、リサの過去に嫉妬しているのという面も半分あるのかもしれない。『幸福の黄色いハンカチ』の中で、高倉健が倍賞千恵子の過去の妊娠を責めるのと似ている。相手のことが好きだから、その過去が許せないのです。

 話の展開はこのあたりからメロドラマになってきますが、最後のマッターホルン登攀シーンが素晴らしいので、話の甘さは気にならない。リサは自らのザイルを切ってサムに自分の命を預ける。それが彼女の新スタートです。

(原題:Lisa)


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