エステサロン
ヴィーナス・ビューティ

1999/08/19 TCC試写室
エステサロンで働く中年女性にハンサムな青年が恋をした!
主人公の感情の機微がよく描けている。by K. Hattori


 パリの街角に面したエステサロン「ヴィーナス・ビューティ」を舞台にした、男と女の恋の駆け引き。エステサロンで働くのは、やり手のオーナーのナディーヌと、中年シングルのアンジェル、元看護婦のサマンタ、見習いのマリー。この物語の主人公は、ナタリー・バイ演じるアンジェルだ。仕事が終わると駅やレストランで見知らぬ男に声をかけ、つかの間の情事を楽しんでいる彼女は、その一方で誰かに心から愛されたいと願っている。若い頃、真剣に愛した男に裏切られた彼女は、それ以来、男性に対してどこかで心を閉ざしている。自分が誰かを愛するのは構わない。でも、愛しすぎるのは禁物。誰かが自分を愛してくれるとしても、その愛を信じすぎるのは御法度。そんな用心深さが、彼女を孤独にさせている。

 だが彼女はある日、アントワーヌと名乗る若い男から突然愛を告白される。自分を無条件で愛してくれる男を求めていたはずなのに、アンジェルは彼から逃げ出してしまう。アントワーヌは、アンジェルを追いかけて店に押しかける。頑なに彼を拒んでいたアンジェルも、少しずつ彼に惹かれていくのだが……。

 映画の序盤で伏せられていたアンジェルの過去が少しずつ明らかにされ、それと同時に彼女とアントワーヌの距離が少しずつ近づいていくというのが全体の流れ。ここに、エステサロンで働く同僚たちの色恋沙汰や、店に訪れる客たちの一風変わった生態をからめながら物語が進んで行く。一番ビックリするのは、クレール・ヌブー扮する露出狂のマダムが登場するくだり。ガラス張りの店の中を、一糸まとわぬ姿で堂々と歩き回るのだから驚く。しかも、一度ならず二度も三度もです。エステサロン内部のエピソードにはそれぞれモデルがいるそうで、露出狂のマダムも実在の人物だとか。

 アンジェルは恋で一度痛手を負っているがゆえに、目の前に現れた男性にも心を開けず、新しい恋に飛び込んで行く勇気が持てない。こうした恋に対する臆病さが、彼女自身の人生そのものを消極的なものにしている。子供のように手や顔を洗い、店の中でも他の若い女の子たちと同列で働くことを選ぶアンジェルは、いつまでも自分を「女の子」だと思いたいのかもしれない。実年齢が40過ぎであろうと、女性はいつだって少女のような心を秘めているのでしょうか。

 監督・脚本のトニー・マーシャルは俳優出身で、この映画以外にも数本の監督作がある。(『男と女と男』には、俳優として出演している。)映画祭では過去にもいくつかの映画が紹介されているが、正式な日本公開はこの映画が最初。この映画は6月のフランス映画祭横浜でクロージング作品として上映された作品だが、その時点で日本配給が決まっていたので、僕はあえて観なかった。この作品はマーシャル監督の人脈を生かして、現代フランス映画界を代表するスターや監督がカメオ出演しているらしいのだが、僕には誰が誰やらさっぱりわからなかった。フランス映画通ならもっと楽しめるのかな。

(原題:Venus Beaute (INSTITUT))


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