実録外伝
武闘派黒社会

1999/08/05 徳間ホール
中国マフィアの殺し屋と、元ヤクザだった青年の交流。
話がベタベタで新鮮さが皆無です。by K. Hattori


 的場浩司が中国系マフィアの殺し屋を演じるヤクザ映画。今回彼が演じているのは、日本人の父と中国人の母の間に生まれ、中国人でも日本人でもないアウトサイダーとして生きてきたリュウという男。血統を重んじる中国系マフィアの世界にいながら、いつも最後は組織から裏切られてきた男だ。この映画には、そんなリュウの他に主人公がもうひとりいる。それは、かつて親分の命令で自分の兄貴分を殺し、刑務所から出てきたばかりのユウジ。兄弟分だったイサオはユウジの務め中に自分の組を構えたが、出所してきたユウジに異様なライバル心を燃やしている。ユウジとリュウは隣り合うボロアパートの隣人同士。互いの素性を知らぬまま挨拶を交わし、それぞれが相手に好意を持つふたり。だがユウジのアパートに頻繁に出入りしているシャブ中の刑事・笠井がリュウの実の父だと知った瞬間、リュウの心は父親への憎悪とユウジへの嫉妬で燃え上がる。

 映画のテーマは「父と子」でしょうか。リュウと笠井の親子関係、笠井とユウジの疑似親子関係、ホテトル嬢の鳴海と父親の関係など、この映画の中には様々な形の「父と子」の姿が登場します。もう少し広い意味で、この映画のテーマを「人間の絆」「人間の宿命」としてもいいかもしれない。自分の尊敬する兄貴分を撃ち殺したユウジ。ユウジへの執着と嫉妬心を消すことができないイサオ。リュウと母親の関係。リュウの母と笠井の関係。鳴海とリュウ、鳴海とユウジの関係。断ち切ろうとしても断ち切ることのできない、人間同士のつながりです。

 物語はリュウとユウジのエピソードが二本立てで進行し、途中からふたつが合流します。リュウの話はベタベタの親子もの、ユウジの話も友情と憎しみというベタな展開。全部が全部「いかにもな話」で、新鮮さは皆無です。それならそれで、このベタな話を正攻法でじっくり描けばいいのですが、この映画はそれもできていない。結局、ただ底が浅いだけの映画になってしまっている。

 面白くなる要素としては、リュウとユウジのふたりと関係を持つ鳴海という女性キャラクターに注目すべきかもしれません。この人物は、映画の3人目の主人公とでも言うべき重要な位置にいる。他のふたりがどこかで人間同士の絆を求めているのに対し、彼女だけはそうした絆を自ら断ち切ろうとした人物なのです。リュウ、ユウジ、鳴海は、それぞれが少しずつ似ていたり、正反対だったりする。そこをもっとうまく描ければ、この映画は異色の青春群像ドラマに仕上がったかもしれません。ユウジを演じている押尾学はまったく知らない顔でしたが、男っぽくてちょっといい感じ。鳴海役の中園りおは、どう見たって18歳には見えないぞ。これは致命的だ。

 かつては兄弟分だったユウジとイサオが日本刀で決闘する場面があるのですが、これはチャンバラ・ファンの目から見ると噴飯ものだった。殺陣の付け方が、香港映画テイストなんです。こんな映画を、時代劇の名門だった大映ブランドで作るなんて恥ずかしいぞ。


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