月光の囁き

1999/08/05 映画美学校試写室
被虐嗜好を持つ高校生と普通の女子高生の恋の行方。
喜国雅彦の同名コミックを映画化。by K. Hattori


 ヤングサンデーで連載されていた喜国雅彦の同名コミックを映画化した、塩田明彦監督のデビュー作。主演は水橋研二とつぐみ。被虐嗜好を持つ男子高校生・日高拓也と、そんな彼を憎みながらも離れることができない少女・北原紗月の物語だ。ふたりは同じ剣道部に籍を置く高校2年生。互いに好意を持っていたふたりは、ごく自然に交際をスタートさせるが、拓也には紗月にも言えない秘密があった。彼はそれまでに、秘かに紗月の写真を撮りためたり、彼女の身の回りの小さな品々を盗んだりしていたのだ。紗月が拓也の部屋に来たとき、彼はトイレの音を小型のテープレコーダーで録音する。それを発見した彼女は、拓也を「変態」となじって部屋を飛び出して行ってしまった。だが拓也は、それでも紗月から離れられない。紗月に怒鳴りつけられ、どんなに意地悪をされても、彼女に付いていく。どんなにひどい目にあわされても「俺は紗月のそばにいられれば幸せ」と言う拓也に対し、紗月の虐待はどんどんエスカレートしていく。

 序盤から中盤までがすごくいい映画です。恋愛描写を観ていてこんなにドキドキする青春映画は、最近あまりなかったように思う。(青春映画ということなら去年の『がんばっていきまっしょい』が最高だけど、あれは恋愛のエピソードがごく小さな扱いだった。)拓也と紗月がつきあい始めるまでの、少しぎくしゃくした様子。図書室でのファーストキス。拓也の部屋での初体験。どの場面も、爽やかで可愛くて、ドキドキしてニヤニヤしちゃいます。「変態!」と一言で切り捨てられている拓也の性癖も、ごく普通の「好意」の延長として、僕は比較的すんなりと受け入れられた。好きな女の子のことを知りたいと思うのは当たり前だし、彼女の写真が欲しいのは当然だし、彼女が身に着けていたものを手に入れたいと考えるも気持ちとしては理解できる。拓也が紗月のロッカーから彼女のブルマーを取り出して匂いをかぐシーンは、『時をかける少女』で尾美としのりが原田知世のハンカチの匂いをかぐシーンと同じじゃないか。つきあい始めた直後、紗月も拓也に「写真がほしい」と言うではないか。トイレの音を録音するのも「いきなりそれはないだろう」とは思いましたが、気持ちはわかる。

 誰だって好きな人の前ではいい顔をしていたい。自分の持っている嫌な面や汚い面を隠して、自分のきれいな面や体裁のいい部分だけを見てほしいと思う。でも拓也と紗月は、まるでその反対になってしまう。拓也は人に言えない性癖を紗月に暴露してしまうし、紗月は自分の中の意地悪さや残酷さをすべて拓也に振り向けてしまう。そして拓也はそんな紗月を、すべて受け入れるのです。紗月は拓也を憎みながらも、自分の嫌な部分もすべて受け入れてくれる拓也の愛情を信頼していく。

 中盤まではすごくいい映画なんですが、終盤になって紗月の気持ちが煮詰まってくるあたりが、もう少し盛り上がらなかった。ラストシーンの穏やかさが心に響かないのは、クライマックスの迫力不足に原因があります。


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