グレイスランド

1999/08/02 メディアボックス試写室
妻を事故で失った青年と自称エルヴィスが車でメンフィスを目指す。
エルヴィス伝説をモチーフにしたファンタジーだ。by K. Hattori


 「エルヴィスは生きている!」というニュースは、今も時折アメリカのタブロイド紙をにぎわせている。この映画は、そんなエルヴィス伝説をそのままモチーフにした作品。エルヴィスが生きているとしたら、彼は20年間なぜ姿を消していたのだろうか。20年もの長い間、何をして暮らしていたのだろうか……。タイトルの『グレイスランド』とは、エルヴィスが最後に暮らしていたメンフィスの自宅のこと。世界中のエルヴィス・ファンにとって、グレイスランドはまさに聖地。この映画では、劇映画としては初めて屋敷内にカメラが入っている。

 妻を交通事故で失った青年バイロンは、事故から1年後、エルヴィスと名乗る年輩のヒッチハイカーを車に乗せる。彼は20年ぶりに、故郷グレイスランドに戻るところだという。男は冗談でエルヴィスを名乗っているのか? それとも、少し頭がおかしくて、自分をエルヴィス・プレスリー本人だと思い込んでいるだけなのか? 男がエルヴィス生前のエピソードや個人データについてやたら詳しいのは事実だが、彼の言動がいちいちバイロンの神経を逆なでするのも事実。バイロンはエルヴィスに反発しながらも、最終的には彼をメンフィスまで送っていくことになる。

 エルヴィスを演じているのはハーヴェイ・カイテル。この映画では、この自称エルヴィスが本物か否かはあまり問われていない。エルヴィスは死んでいるのだから、この自称エルヴィスはふざけた物まねマニアか、頭のおかしい男に決まっているのだ。ところが物語の途中から、この自称エルヴィスが「ひょっとして、本物なの?」という場面が少しずつ出てくる。ハイウェイで幼なじみの保安官に出会う場面はゾクゾクするし、物まねショーのステージに立って「サスピシャス・マインド」を熱唱するくだりも鳥肌もの。しかし彼の正体は、意外なところからバイロンに知られることになる。このあたりの種明かしは、少し『フィッシャー・キング』が入っている。

 しかし映画がここで終わったのでは、単なる「エルヴィス・マニアの変なオヤジがいた」というだけの話。それじゃ「エルヴィスは生きていた!」という話にならない。この映画では最後にもう一度大きなどんでん返しを用意して、「あの男は、いったい何者だったんだ?」「ひょっとして、やっぱりエルヴィスなのか?」「そうだよ、あれはエルヴィスだったんだよ!」という結論に持っていく。両手を上に突き出して「Remember the king!」と叫ぶエルヴィスが、雑踏の中に消えていくエンディングの素晴らしさ。エルヴィスは「キング」を廃業して、今は心に傷を持つ人々を救う天使になった。

 心に深い傷を持つ青年と、一風変わった年輩の男が偶然知り合って旅をするロードムービー。そこにエルヴィス伝説を組み合わせた脚本のアイデアが面白い。製作総指揮はエルヴィスの妻だったプリシラ・プレスリー。グレイスランド内での撮影などは、彼女の協力があればこそ実現したものだろう。素敵な映画でした。

(原題:Finding Graceland)


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