デジタル・ハードコア!!!!!!
〜ヴィールス・ビデオ・コレクション〜

1999/07/06 映画美学校試写室
デジタル・ビデオとコンピュータ編集を駆使したミュージック・クリップ集。
刺激的な映像の連続に頭がクラクラする。by K. Hattori


 ベルリンで活躍するアタリ・ティーンエイジ・ライオット(ATR)というデジタル・ハードコア・バンドがあるそうで、その中心人物アレック・エンパイアが設立したのがデジタル・ハードコア・レコーディングス(DHR)というレーベル。この映画は、DHRのアーティストたちと共同で独自のミュージック・クリップを作っている、フィリップ・ヴィールスの作品集だ。デジタル・ビデオとコンピュータ編集を使って、手作り感覚で作られているチープな作品ばかりだが、ここには手作りの荒々しさや勢いがあって、脳味噌がシャッフルされるような刺激に満ちている。

 映画が始まった瞬間、「まずい。これは俺の守備範囲じゃないぞ」と思ったんですが、そのわりには楽しめた。大音響のノイジーな音楽に合わせて、画面がチカチカ明滅しはじめたときは光原性癲癇になるかと思いましたし(この映画を観るときは部屋を明るくして、画面から十分に離れましょう。無理か……)、こんな表現ばかりだったら1時間15分は耐えられないと思ったんですが、画面チカチカはこのディレクターの持つ表現手段のひとつに過ぎない。他の作品ではじつに多彩な映像を見せてくれます。映像の基本は手持ちカメラで撮影した素材を、後からさまざまに加工したり合成したもの。家庭用の安いカメラを使っているらしく、画像はどれもシャープさに欠ける。しかし加工の仕方が半端じゃないので、そんな欠点は吹っ飛んでしまいます。手持ちカメラをグルグル振り回す乗り物酔いしそうなカメラワークも、慣れてくると「もっと振り回してくれ!」という気持ちになってくる。より強い刺激を求めるジャンキー状態です。

 この映画の中で一番刺激的な映像は、ベルリンの戦争反対デモで演奏するATRの周囲に集まった群衆を、突然警官隊が襲う場面でしょう。白熱した街頭ライブに集まった人々の群れを、ヘルメットと盾と警棒で武装した警官隊が蹴散らしていく。それでも演奏をやめないATRがすごい。デモ隊と警官隊の小競り合いが全体に波及し、数百人単位の大規模な衝突になる。複数台のカメラが、トラックの上で演奏するバンドと、群衆に警棒を振り下ろし、ガス弾を発射する警官隊を交互に撮影する迫力満点の映像。最初はニュース映像か何かを編集の段階で挿入したのかと思っていたら、これがまるっきりの実録なんで驚いてしまった。最後はATRのメンバーも逮捕され、数時間後に釈放されたそうな。この映画には、メンバーが逮捕される瞬間の映像も納められています。これは今年の5月1日に起きた事件。

 ビデオカメラやPCレベルでのデジタル編集が普及したことで、この映画に収録されているような映像が比較的安価に製作できるようになった恩恵は大きい。小型カメラの機動性やゲリラ性は、デモ隊と警官隊の衝突映像だけでも立証されています。それよりすごいのは、こうした社会的広がりのある事件を、ミュージック・クリップに仕立ててしまうことかもしれませんが……。

(原題:DIGITAL HARDCORE / VIRUS VIDEOS)


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