ロベールとは無関係

1999/06/11 パシフィコ横浜
(第7回フランス映画祭横浜'99)
恋人が別の男に走ったら、こっちも別の女に走ってやる!
と、世の中そう簡単にはいかないのだ。by K. Hattori


 『百貨店大百科』や『ボーマルシェ/フィガロの誕生』などの映画で日本にもファンの多い、俳優ファブリス・ルキーニの主演最新作。観ていない映画について厳しい批評を書いたことでコラムニストとしての評価を落とした主人公ディディエは、2年付き合った恋人ジュリエットにも振られてしまう。だが捨てる神あれば拾う神あり。ディディエの前に現われた謎めいた美女オーレリーが、彼のことを全身全霊をかけて愛しはじめる。ディディエの気持ちはジュリエットとオーレリーの間で揺れ動く。

 カップルの双方に新しい恋人ができ、二重の三角関係になる映画はよくある。ところがこの映画では、主人公の恋人ジュリエットが主人公と新しい恋人の間で揺れ動き、主人公の新しい恋人オーレリーの前には彼女の昔の男が現れる。三角関係が別の三角関係とつながり、さらに別の三角関係を生み出していくという映画です。ジュリエットを演じているのは、『ボーマルシェ/フィガロの誕生』でもルキーニと共演したサンドリーヌ・キベルラン。オーレリーを演じているのは、ルネサンス期の女流画家を描いた『アルテミシア』で主人公を演じたヴァレンティナ・チェルヴィ。ふたりのヒロインは、一方が主人公を離れて自由奔放にふるまい、もうひとりは主人公にのめり込んでとことんつくす女として描かれている。

 セックスについて明け透けに話し、新たな性の快楽を求めて飛び回るジュリエットを、清楚で古風な女に見えるキベルランが演じているミスマッチ。これは『フォー・ウェディング』でアンディ・マクドウェルが奔放な女を演じていたのに近いキャスティング。役柄と俳優のバランスがうまくとれて、このキャラクターが嫌らしく見えない。一方のオーレリーは愛する男一筋の女性で(しかも病弱)すが、彼女も決して「古風な女」などではない。彼女は自分で男を口説き、意に沿わない男は徹底して拒絶できる能動的な女なのです。

 この映画に登場する恋愛関係は非常に特殊なケースで、登場人物の多くはエキセントリックな性格の持ち主です。ひとつひとつのエピソードは「そんなことがあるかも」と思えるものですが、それが共感を得られるかどうかはわからない。浮気相手とのセックスの様子を、恋人に赤裸々に語る女性なんてねぇ……。恋人に対する誠実さという点でも、主人公たちは決して自慢のできる行動をとっていない。最後にためになる教訓もありはしない。およそどんな恋愛のモデルケースもなりそうにない映画です。おそらくこの映画は、日本映画には絶対翻案不可能でしょう。日本人から見ると、彼らはあまりにも恋愛に対して貪欲なのです。これを日本人が演じると、とても臭くて見ていられなくなるでしょう。

 主人公が映画批評の仕事をしていることで、僕は彼に親近感を持ちました。「君の強気な文体は、弱さを隠そうとする態度の裏返しだ」という教授の批判が、僕にもギクリと来た。映画を観ないで批評することだけは、決してするまい。それがこの映画から得た僕なりの教訓。

(原題:RIEN SUR ROBERT)


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