ファスター、プシィキャット!
キル! キル!

1999/06/04 シネカノン試写室
ラス・メイヤーが'66年に撮った、女のヌードの出ないカルト映画。
映画史上もっとも凶暴なゴーゴーガールの出現。by K. Hattori


 この映画こそ、ラス・メイヤーの名を不朽のものにしているカルト・ムービー。1966年製作というから、この映画はちょうど僕と同い年。先日観た同監督の『ワイルド・パーティ』が退色したスカスカ映像だったのに比べると、こちらはプリントの状態も申し分ない。モノクロのスタンダード画面に繰り広げられる女たちの暴力は、今観ても鮮烈だ。物語はある意味で行き当たりばったりなのだが、これは確信犯的なもの。世界でもっとも凶暴なゴーゴーガールが、次々に人を殺して行くという無茶苦茶な話が、どういうわけかじつに痛快なのだ。

 都会のゴーゴーガール3人組が、スポーツカーに乗って旅に出る。途中で出会ったいかにも好感度の高いカップルを挑発してレースをしたかと思うと、相手の男を空手チョップで殺してしまう凶暴なヒロイン。ボーイフレンドを目の前で殺された女は悲鳴を上げて失神すると、ゴーゴーガールたちは彼女を車に押し込んで、今度は鉄道事故の補償金で大金持ちになったという老人の家に、金を奪いに行くのだった……。3人組のリーダー格は、トゥラ・サターナ演じる全身黒ずくめのヴァーラ。彼女はインディアンの血を引く空手の達人。一緒に旅をしているロージー(演じているのはハジ)は恋人だが、ヴァーラは気分次第で男とも寝ることができるバイセクシャル。ヴァーラが男に色目を使うたびに、ロージーはちょっとハラハラしてしまう。もうひとりのゴーゴーガールは、金髪で好色なアメリカンガール、ビリー(演じるのはロリ・ウィリアムズ)。3人はそれぞれが自分の欲望にとても素直で、しかもスタイル抜群だ。(美人かどうかは評価が割れそう。僕は好みじゃない。)

 ヴァーラたち3人は、極悪非道な人殺しです。彼女たちは欲望のままに人を殺し、しかも良心の痛みを感じない。立場を入れ替えれば、この映画のヒロインはボーイフレンドを殺され、自分は3人に誘拐されたリンダであり、ヒーローは彼女を助ける農場の長男カークということになるのだろう。しかしそれだけでは、この映画がカルト・ムービーになるはずなどない。この映画では、3人組に殺される連中が、徹底的にださくて醜悪な人種として描かれいている。その筆頭は「他人とレースで競い合うより、タイムを計って自分自身の記録と戦うんだ!」と偉そうにぶち上げるリンダのボーイフレンド。学級委員的なこの発言に対し、ヴァーラが相手を腰抜け扱いして挑発したときは、観客の誰しもヴァーラの側に感情移入し、「ガツンと目にものみせてやれ!」と思ったに違いない。案の定、彼はヴァーラにレースで負けて半べそ状態。リンダを3人から救おうとして、逆にヴァーラの空手チョップの洗礼を受けて死んでしまう。ここで「や〜い、いい気味だ」と思えなかった人にとって、この映画は最後まで不快なものになるでしょう。

 この映画には「欲望のままに生きる悪党の方が、品行方正で善良な市民より格好いい」という哲学がある。その悪党がグラマーな美女なら、もっとイイに決まってる。

(原題:FASTER, PUSSYCAT! KILL! KILL!)


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