テックス・エイヴリー
笑いのテロリスト

1999/06/02 映画美学校試写室
アメリカの短編アニメ作家テックス・エイヴリーの作品を特集上映。
アナーキーなギャグの数々にびっくり! by K. Hattori


 1930年代から'50年代にかけて、劇場用短編アニメやCMの世界で活躍した、テックス・エイヴリー監督の特集上映が行われる。劇場用短編アニメというのは、例えば「ルーニー・テューンズ(ワーナー)」とか「トムとジェリー(MGM)」みたいなもの。昔は劇場で本編が上映される前に、ニュースフィルムと短編アニメが一緒に上映された。やがて短編アニメは劇場から姿を消し、テレビで繰り返し放送されて大人気となる。テックス・エイヴリーはもともとワーナーでルーニー・テューンズを監督していた人。'42年にMGMに移り、大量のアニメ映画を製作した。MGM時代に監督した作品は、全部で69本。今回はその中から傑作ばかり24本を選んでの上映だ。1本ずつは短くても、全部合わせれば約3時間。それをAプロとBプロに分けて上映するので、劇場に2回行けば全部の作品が観られる。

 ルーニー・テューンズでもそうだが、この手の短編アニメは作り手よりもキャラクターで見ることが多く、余程のマニア以外は監督の名前など覚えていないだろう。ところがこうして同じ監督の作品ばかり何十本も観ると、嫌でも監督の個性が感じられて面白い。特に今回の試写では、プリント発注の手違いでテックス・エイヴリー本人の監督作ではなく、彼の作品をリメイクしたものが1本混ざっていた。(劇場上映ではエイヴリー監督の作品に差し替える予定。)同じ話を同じように映像化していても、エイヴリーと他の作家の違いが一目でわかることは、この作品でも明らかだ。エイヴリーはアメリカでも人気のある監督らしく、作品集がビデオで何本か出ている。僕もビデオが欲しくなってしまった。

 何しろ24本もあるので、そのひとつひとつについて細かな感想を書く余地はない。一番笑ったのは『ドルーピー/つかまるのはごめん』と『呪いの黒猫』(共にAプログラム)。すごく気になったのは、ダンサーが登場する一連の作品(これはBプログラム)。エイヴリーの映画のギャグはきわめてアナーキーだ。登場するキャラクターたちは画面から客席に向かって語りかけ、途中で席を立つ観客を叱りつけ、追いかけっこをすればフィルムを飛び出してしまう。ギャグのパターンはいくつかに分類できそうだし、同じようなギャグが何度も使い回されている部分もあるが、それでも猛烈に面白い。こんな映画が今から50年も前に作られていたなんて、ちょっと驚いてしまう。ディズニーアニメの軟弱さや偽善ぽいところが嫌いな人は、エイヴリーを観るといい。

 今回上映される映画が作られたのは、ちょうど第二次大戦をはさんだ時代。アメリカでは大戦中にさまざまな戦意高揚映画が作られ、アニメもそれに一役買っていた。茶化される相手はたいていナチスだが、同時に日本もコテンパンにやっつけられる。'42年製作の『うそつき狼』は「3匹の子ブタ」の戦争版パロディだが、日本に爆弾を落として海に沈めてしまうような場面がギャグになっていると、やっぱり少し複雑な心境になる。


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