ブラック・ドッグ

1999/05/28 東宝東和試写室
ベテランのトラック運転手が、違法な銃の輸送に巻き込まれた。
大型トラック同士のカーチェイスは重量級の迫力。by K. Hattori


 パトリック・スウェイジ演ずるトラックの運転手が、違法な銃の輸送に巻き込まれるアクション・スリラー。物語そのものは、すごく単純で大味。同じ東宝東和のトラック映画でも、『ブレーキダウン』のようなスリルと緊張感は望めない。しかし、僕はこの映画に好印象を持っている。これぞアメリカ映画。アメリカ以外で、こんな映画が撮れる国はないのです。観る者をうならせる凝った仕掛けはどこにもありませんが、単純明快に力でねじ伏せて行くようなパワーがある。テキサスの田舎町にある大衆食堂で出される、特大のTボーンステーキみたいな映画です。肉をただ焼いて、付け合わせのポテトをどっさり付け、客の目の前にドカンと突き出すような無愛想さ。都会的に洗練された味とは程遠いながら、これはこれで美味いに違いありません。

 この映画の見どころは、大型トラックを使った過激なカーチェイスです。追跡する乗用車を道路外にはね飛ばす、主人公のドライビングテクニック。大型トラックの巨体を生かした、格闘シーンや銃撃戦もあります。巨大トラックが狭い山道を4台も併走し、何台かが崖を転げ落ちたり爆発炎上するシーンは、この映画の中でも最大の見せ場。転落するトラックに積み込まれたカメラが、粉々に砕けて行く車体を克明にとらえます。普通の映画なら、こうしたカークラッシュは最大の山場となり、観客を興奮させることでしょう。ところがこの映画では、カークラッシュが何の感動もなく、いとも平然と起こってしまう。これは監督が下手なのか……。でも僕は、この無愛想な感じが大いに気に入ってしまいました。

 現代のハリウッドはCG技術が全盛で、ビルの爆破だろうが宇宙戦争だろうが、小さなシリコンチップの中ですべて人工的に作り出すことができるのです。『ブラック・ドッグ』に登場するカーチェイスは、そうしたハイテク技術とは無縁の超ローテクです。実際にトラックを走らせて、ぶっつけて、崖から突き落として、爆発炎上させて、それをそのままカメラで撮っている。同じようにカーチェイスを描くにしても、カメラワークや編集で、この映画よりもっと迫力のある場面を作り出すことだってできたでしょう。でもこの映画は、そうした工夫がまったくない。大型のトラックがもたもた山道をもつれ合って、ゴチンゴチンぶつかりあって、ゴロンゴロン転がって行くのを、ひたすらカメラで追いかける。この愚直さ。「でかいものが壊れれば迫力があるだろう」「でかいものを壊すのは楽しい」という信念に従い、ひたすら馬鹿正直にカメラを回す芸のなさ。しかしこれが、結果としてはよかった。スピード感はなくても、この映画には本物の重量感と迫力が生まれました。

 それにしても、パトリック・スウェイジ……。かつて『ゴースト/ニューヨークの幻』でロマンチックな役を演じていたとは思えない、無骨なオジサンに変貌しています。今回の役柄には似合っていますが、昔の彼のイメージからはずいぶん変わってしまった。

(原題:BLACK DOG)


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