報復
劇場版

1999/05/06 徳間ホール
人間同士の殺し合いを賭の対象にする「カンボジアン・ルーレット」。
命がけの勝負の中で、男はある真相を探し求める。by K. Hattori


 ギャンブルの借金で身動きのできなくなった刑事が、金融業者に拉致されて送り込まれた地下室。そこで行われていたのは、借金まみれの人間たちが命を賭ける死のゲームだった。「カンボジアン・ルーレット」と呼ばれるそのゲームは、参加者4人が丸いテーブルに座り、互いの目の前に置かれた拳銃で他の参加者を射殺するという、文字通りのサバイバル・レース。4丁の拳銃には、それぞれ1発ずつ弾丸が込められている。カウントダウンの数字がゼロになった瞬間、参加者は目の前の拳銃をつかんで“誰か”に向けて引き金を引く。誰が誰に向けて引き金を引くかは、ゲームが始まる瞬間までわからない。ゲーム場を見下ろすバルコニー席では、誰が生き延びるかを賭けて、金持ちたちが数千万単位のギャンブルに興じている。まるでローマ時代の闘技場だ。

 命の値段は最初の一勝負が100万円。そこで生き延びて次のゲームに参加すると、レートは200万円にアップ。そして3度目には400万円と、倍々にレートは高くなって行く。ただし、これはテーブルでひとりだけが生き延びた時の話。ふたりが生き延びれば、賞金は半分。3人が生き延びれば3分の1に減額。全員が生き延びた場合はノーゲームだ。最初の借金の額に関係なく、参加者たちは手にした賞金が1億円に達するまで、ゲームを降りることができない。つまり最低でも7回は、この残酷なゲームに身をさらす必要があるのだ。単純な確立論だけでは、7回を生き延びる可能性はゼロに等しい。当然ここでは、参加者同士の駆け引きが発生する。参加者指名からゲーム開始までの間に、他の参加者と組んで生存の確立を上げるのだ。一番いいのは、3人組になって残るひとりを血祭りに上げること。だが、そんな約束が守られる保証はどこにもない……。

 主人公は竹内力演ずる刑事・月本。彼は籠城事件を起こした親友の刑事・西田を説得するのに失敗し、やむを得ず射殺するはめになる。そのショックから立ち直れないまま月本はギャンブルにのめり込み、妻子とも別れることになり、借金だけがふくれ上がっていった。そんな彼が送り込まれたのが、カンボジアン・ルーレットを売り物にする秘密カジノなのだ。

 密室の中で繰り広げられる、人間同士の騙し合いや駆け引きの面白さ。どんなに入念に根回ししても、勝負の瞬間には何が起こるかわからない意外性。偶然と思惑が入り混じり、金と命に対するむき出しの欲望とエゴイズムがぶつかり合う迫力。しかし映画は勝負の面白さを描くより、主人公が勝負の中で見つけようとする「真相」や「復讐」に気を取られてしまった。密室の中で緊張感が高まっているのに、カットバックで回想シーンを入れては緊張の糸がそこで途切れてしまう。話のアイデアは面白いのに、脚本の構成で失敗しているのだと思う。最後まで物語に引きつけられるのは確かだが、ゲーム参加者たちの追いつめられた心理からは、時々引き離されてしまうのだ。これはすごく残念。


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