運動靴と赤い金魚

1999/04/21 徳間ホール
アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされたイラン映画。
監督・脚本はマジッド・マジディ。by K. Hattori


 今年のアカデミー賞で、『セントラル・ステーション』や『ライフ・イズ・ビューティフル』と並んで外国語映画賞にノミネートされていたイラン映画。既に日本での公開が始まっているこれらの映画もすごく評価が高いのですが、僕はこの『運動靴と赤い金魚』に、より感動してしまった。今気づいたんだけど、これらの作品はどれも子供が重要な役回りで登場します。僕も子供の映画にすっかり弱くなったんだけど、これは世界中どこに行っても同じみたいですね。今回観た映画は、主人公が幼い兄妹。前記2作品が子供を1名ずつ出演させていたのに対し、今回は可愛さも健気さも一挙に2倍です。

 主人公のアリは買い物の途中、妹ザーラから預かって修理したばかりの靴をなくしてしまう。ボロボロにすり切れた粗末な靴だが、ザーラの靴はそれ1足しかない。新しい靴を買ってもらいたくても、そんな余裕は家にはないのだ。家は貧しくて家賃を何ヶ月も滞納しているし、母親はぎっくり腰になって身動きができない。父親の収入だけでは、なかなか生活の細かな部分まで手が回らないのだ。アリとザーラは、1足のズック靴を一緒に使うことにする。午前中に授業があるザーラが朝から靴を履いて出かけ、午後からはアリがそれを履いて学校に出かける。ところが靴の受け渡しがなかなかうまくいかず、アリは連日遅刻スレスレで学校に飛び込むようになる。

 この映画には素晴らしいシーンが多すぎて、ここで簡単に言葉にはできないほどです。アリの運動靴を履いて学校に行ったザーラが、クラスメートたちの中で何となく恥ずかしい思いをしたり、逆に誇らしく思ったりする姿が痛ましくも愛らしい。ブカブカの運動靴を水路に落としてしまい、必死にそれを追いかけて行く場面もスリル満点です。それまでは靴なんてぜんぜん気にならなかったのに、自分の靴をなくしたとたんに、他人がどんな靴を履いているのかがすごく気になりだす気持ちもよくわかる。気にする必要がないのに、気になっちゃうんだよね。ザーラの悲しそうな顔と、いつも泣きべそをかきそうなアリの顔が、すごく印象に残る映画です。

 映画の中で一番好きな場面は、ザーラが自分のなくした靴を履いている女の子を見つけて、アリと一緒にその家まで出かけるところ。靴を返してもらいに行ったはずなのに、その女の子の父親が目の見えない人で、自分たちと同じぐらい慎ましやかな生活をしていることを察すると、何も言えずにとぼとぼと家に帰ってきてしまう。バツが悪いとか、タイミングがよくなかったとかじゃない。アリとザーラは、すごく優しいのです。優しいから、他人の痛みや苦しさがよくわかって、自分たちが我慢しようと思ってしまう。なんていい子供たちなんだろう。

 賞品の運動靴目当てに、アリがマラソン大会に出場するクライマックスは興奮します。スローモーションを多用するのが、やや気になりますが……。結末は最初から予想できるんだけど、アリの表情があまりにも素晴らしいので、そんなことはまったく不満になりませんでした。

(英題:Children of Heaven)


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