リアル・ブロンド

1999/04/07 徳間ホール
売れない役者と金髪マニアの親友の恋の行方はどこに?
監督は知る人ぞ知るトム・ディチロ。by K. Hattori


 『ジョニー・スウェード』『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』のトム・ディチロ監督最新作。俳優を志しながら、いつまでも売れずにレストランのボーイで糊口をしのいでいるジョー。その友人で、金髪フェチの女たらし俳優ボブ。ジョーと同棲中の恋人で、CM撮影でモデルのメイクを担当しているメアリー。ボブに恋するモデルのサハラ。彼らは数々の困難を乗り越えて、いかにして自分自身の理想的パートナーを探し当てるか……。物語はふたりの男とふたりの女が中心になって進むラブコメだが、今の時代に恋の障害などありはしない。恋を阻むのは、当人たちの過剰な思いこみ。自分にとっての理想像と相手の実像とのギャップや、自分自身の固定観念、それまでに培ってきた自分の生き方と相手の生き方との食い違いなどだ。

 タイトルの『リアル・ブロンド』というのは、登場人物のひとりボブが金髪マニアであることからとられたもの。彼は金髪の女性に目がないのだが、その金髪も染めたものではダメ。正真正銘の生まれながらのブロンドでなければ、彼の食指が動かないのだ。この映画には何人かのブロンド美女が登場するが、その中で正真正銘のブロンドは1名のみ。この映画での「ブロンド」というのは、本来の自分ではない虚栄や体裁に満ちた姿の象徴。人間が誰しも身に着けている、「他人に見てほしい自分の姿」という仮面のことです。主人公ジョーは、昼メロになど見向きもしない演技派の俳優を気取っている。恋人のメアリーは、男性のセクハラなど歯牙にもかけないインテリ女性として振る舞っている。ボブは筋金入りのプレイボーイである自分に酔い、彼に恋するサハラは、恋愛上手な大人の女になろうとしている。でも、人間の本当の幸せは、そうした仮面を脱ぎ捨てたところにある。見栄や強がりを捨てて、本当の自分、弱い自分をさらけ出せる相手に巡り会えたとき、人間は心の安らぎを感じるのでしょう。もちろんどんな場合でも、人間は最後まで飾ってものを喋るものですけれどね。

 出演者はすごく豪華。売れない役者ジョーを演じているのはマシュー・モディン。リアル・ブロンドの昼メロ女優を演じているのはダリル・ハンナ。ジョーのエージェントがキャスリン・ターナー。ジョーのバイト先の上司がクリストファー・ロイド。偽マドンナを演じるエリザベス・バークレー。そして、ミュージック・ビデオの監督がスティーブ・ブシェミ。メジャーな役者が出ていても、ノリはあくまでインディーズ映画。役者のネームバリューに頼ることなく、話は軽妙洒脱そのものです。

 人間は100のことを望んでいても、そのうち30ぐらいしか実現できずに、いつも妥協して生きている。この映画は、そんな妥協だらけの人生がいかに素晴らしいものかを描いているようにも見えます。「こんなことってアルよなぁ……」という描写のオンパレードに、思わず大きくうなずきニヤニヤ笑いながら観てしまう映画でした。平凡な人生も素敵だ。普通の人生万歳!

(原題:The Real Blonde)


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