RONIN

1999/04/06 UIP試写室
金で雇われた各分野のプロが、謎のスーツケースを狙って動き出す。
見どころは市街地でロケした壮絶なカーアクション。by K. Hattori


 ロバート・デ・ニーロとジャン・レノが共演した、極めつけのアクション・スリラー映画。監督はジョン・フランケンハイマー。タイトルの『RONIN』というのは、江戸時代の浪人のことで、ここでは冷戦が終わって主を失った軍事や諜報のエキスパートたちのことを指しているようだ。かつては国家や組織のために命を賭して働いていた男たちは、冷戦という枠組みがなくなったことで浪々の身。今ではそれぞれが、金のために働く一匹狼のスペシャリストになっている。

 主人公サムはアメリカ人。時には臆病とも思えるほど用心深い行動をとる彼は、任務を遂行するための冷徹な判断力と敏捷な行動力を併せ持つ、筋金入りのプロだ。かつては「国家のため」という明確な目的もあり、そのために命を投げ出すことも惜しいとは思わなかった。自分一人が倒れても、それを無駄にはしない国家のバックアップがあったからだ。だが今は違う。金のために雇われた男が殺されても、それはただの無駄死にだ。自分の命はまず自分で守る。その上での任務遂行だ。映画の冒頭、集合場所のバーに近づきながらもそれを遠巻きに値踏みし、まずは裏口を確かめて武器を隠し、店に入ってもまず裏口の鍵を開けておく用心深さ。これがプロだ。

 この映画は個々のシークエンスとアクションシーンが猛烈に面白い。特に、カースタントは絶品。この映画のカーアクションを見たら、カースタントが売りだった『TAXi』が面白かったなんて、口が裂けても言えないはずだ。ニースで、パリで、市街地の中を猛スピードで車が疾走し、高速道路を逆走する。しかもそれに、ガンアクションがプラスされ、巻き込まれた車が横転大破し、大爆発が次々に起こるのだ。『ピースメーカー』のカーアクションもすごかったが、この映画はその30倍は凄まじい。この映画のカースタントを見ているだけで、乗り物に弱い人は車酔いするんじゃないだろうか。

 ただし、物語そのものはちょっと弱い。主人公たちの目的は、謎の男たちから謎のアタッシュケースを奪い取ること。ケースは次々と別の人の手に渡り、そのたびにケースの争奪戦は過激さを増して行く仕掛けだ。ケースの中身は最後まで謎。いったいこのケースの中身は何なのか。なぜあらゆる人々が、このケースを命がけで奪い取ろうとしているのか。しかしこの映画には、「ケースの中身は何か?」というミステリー要素が欠落している。こうしたミステリー要素があると、ケースの謎めいた存在感が大きくなり、ただの金属ケースが血塗られた宝石箱のような輝きを見せるはずなのだが……。

 映画の中では『忠臣蔵』を引き合いに出していたが、宝物の争奪戦なら『丹下左膳』というお手本があるではないか。乾雲坤龍二刀をめぐる争いしかり、名器こけ猿の壺を巡る争奪戦しかり。物言わぬ宝物は、それを奪い合う人間たちの生き血を吸って、より強くその存在感を主張するものだ。この映画にはそれがないため、男たちがガラクタに血道を上げるアホウに見えなくもない。

(原題:RONIN)


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