8mm

1999/03/26 SPE試写室
都市伝説の王者スナッフ・フィルムは本当に存在するのか?
私立探偵がアングラ・ポルノの世界を探検する。by K. Hattori


 大富豪の遺品から発見された8ミリ撮影のスナッフ・フィルムの謎を追って、私立探偵がセックス産業の暗部に潜り込んで行く物語。主人公の探偵を演じるのはニコラス・ケイジ。その案内役となるポルノ・ショップ経営者役がホアキン・フェニックス。「ポルノ映画界のジャームッシュ」と呼ばれるアングラ・ポルノの監督を、ペーター・ストルマーレ(ずっとピーター・ストーメアだったのに、いきなり日本語表記が変わりました)が演じています。監督はティム・バートンから『バットマン』シリーズを引き継いだ、ジョエル・シューマーカー(彼もずっとジョエル・シュマッカーだったのに)。シューマーカー監督は『フォーリング・ダウン』や『依頼人』など、良質のサスペンスが撮れる監督で、今回の映画もそこそこ面白く撮っています。下手くそな監督ではないのに、どういうわけか『バットマン』シリーズはフニャフニャなんだよね。これが謎なんだけど……。

 主人公トム・ウェルズは、一流大学を優秀な成績で卒業した後、政治家や大企業、富豪など、金持ち相手の仕事で信用と実績を積み重ねてきたインテリ探偵。そんな彼が、莫大な遺産を相続した実業家の未亡人から、1本の8ミリ・フィルムを見せられる。そこには、ひとりの少女がマスクの男に惨殺される様子が、克明に描かれていた。これは都市伝説で長年語られながら、誰も本物を見たことのないスナッフ・フィルムなのか。それとも、よくできた特撮映画なのか。未亡人は自分の夫がそんなフィルムを持っていたことにショックを受けている。彼女はそのフィルムが巧妙なトリック撮影であることを、誰かに証明してもらいたいのです。ウェルズも話を聞いたときは「本物のスナッフ・フィルムなどない」と断言しますが、実際にフィルムを映写した瞬間、それが本物の殺人を写したドキュメンタリーだと直感します。

 脚本を書いたのは、『セブン』のアンドリュー・ケビン・ウォーカー。この映画でも、一見平凡に見える人間が持つ心の闇を、たっぷりと描いている。アンダーグラウンドの世界を探るうちに、主人公自身がその空気に染まっていくというアイデアそのものは、『ブルー・ベルベット』などにもあったもので新鮮味はありませんが、『フォーリング・ダウン』でもロスのアングラ世界をカタログ的に描いたシューマーカー監督が、このドロドロした世界を手際よく描写して行きます。難を言えば、この映画は手際がよすぎて、アングラ世界が主人公に与える生理的な嫌悪感が感じられないことでしょうか。アメリカン・ドリームの光と影を、もっと毒々しいコントラストで描いてくれると、身震いするような傑作になったでしょうに……。どうも、語り口にコクがありません。

 スナッフ・フィルムの真相調査が主人公の当初の目的だったはずなのに、途中からそれが個人的な復讐代行という目的にすり替わってしまう。主人公の嫌悪感や憤りをもっと十分に描いておかないと、この転換がすんなりと受け入れられないのではないでしょうか。

(原題:8MM)


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