日本黒社会
LEY LINES

1999/03/25 東映第2試写室
北村一輝が残留孤児2世を演じるチンピラ・ギャングの物語。
僕には三池崇史監督のよさがわからない。by K. Hattori


 一部に熱狂的なファンのいる、三池崇史監督の最新作。'95年のデビュー作『新宿黒社会/チャイナ・マフィア戦争』、昨年の『極道黒社会/RAINY DOG』に続く、三池流「黒社会」シリーズの3作目。それぞれの作品に内容の関連性はあまりないようだが、僕は前2作を未見なので何とも言えない。今回の映画は、母親が中国残留孤児、父親が中国人という在留孤児2世たちを主人公に、新宿に巣くう中国人マフィアや外国人犯罪者たちの姿を描いている。主人公の呂龍一を演じているのは、『岸和田少年愚連隊/血煙純情篇』のサダ役や、『完全なる飼育』の隣室住人役で、今もっとも気になる俳優のひとりとなっている北村一輝。(彼は和製ピーター・ギャラガーとでも表現できる濃い顔立ちだね。)同性愛者や気の弱い神経質な男という役の多かった彼だが、今回は堂々たる主役。ただし、今回の役はあまり面白くない。というより、映画そのものが面白くない。

 日本人でも中国人でもない男たちが、自分の居場所を求め、具体的な目的もないまま「ここではないどこか」への道を探し求める物語です。小さな無人駅がポツンとあるだけの小さな村を抜け出して、新宿の雑多な人混みの中に紛れ込んだ在留孤児2世の3人組。彼らの目的は新宿で成功することではない。彼らは日本を抜け出して、どこか遠くに行きたいのです。ブラジル行きを目指すのは、そこが地球の裏側、つまり日本から一番遠い国だからだと思う。小さな頃から徒党を組んで暴れ回っていた主人公たちは、保護観察中なのでパスポートが取得できない。彼らは知り合った中国人娼婦と一緒に、非合法な手段で日本脱出の道を探るのです。

 彼らがなぜ日本を脱出したいのか、その気持ちがさっぱりわからないので、僕はこの映画に共感できなかった。日本人でもなく、中国人でもない彼らは、自分たちのアイデンティティや祖国というものを持っていない。だからこそ、架空の理想郷を海外に夢見ているのかもしれない。でも「日本がイヤだ!」という、彼らの行動の根っこにある気持ちが、映画からはどうしても伝わってこないのです。映画の冒頭で、子供の頃に日本人の子供たちからいじめられた主人公たちの過去が描かれますが、それだけでは彼らの行動を説明できないと思う。

 この映画では「故郷」や「郷愁」というのが、ひとつの大きなテーマになっているはず。中国人マフィアのボスが、中国人の女たちに夜な夜な生まれ故郷のおとぎ話をさせるのも、失われた自分のルーツを取り戻そうとするエピソードだと理解できる。主人公たちも中国マフィアのボスも、共に根無し草の男たち。その一方は過去を振り捨てて別の場所に脱出しようと試み、もう一方は失われた過去を取り戻そうとあがいている。こうしたコントラストがもう少し明確になると、この映画は多少わかりやすいドラマに発展するのでしょう。もっとも、そうしたテーマが今の日本人にとって、どれだけ切実なものになるのかは、まったくの別問題ですが……。


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