天井桟敷のみだらな人々

1999/03/19 日本ヘラルド映画試写室
個性派俳優ジョン・タトゥーロの監督第2作はバックステージもの。
クリストファー・ウォーケンの芝居が壮絶です。by K. Hattori


 スパイク・リーやコーエン兄弟の作品でレギュラー俳優として活躍しているジョン・タトゥーロの監督作で、昨年のカンヌ映画祭コンペ部門に正式出品された作品。今世紀初頭のニューヨークを舞台に、売れない劇作家が自分の戯曲「イルミナータ」を舞台にかけるまでの騒動を、劇団員や劇場主、劇評家、他の劇団の大女優などをからめながら描いて行く群像コメディだ。今世紀初頭の演劇界を忠実に再現したセットやコスチュームが見事で、個々のキャラクターも魅力的に描けているものの、物語の進行自体はスッキリしない部分もあり、クライマックスに向けてエピソードが収束して行かないのは不満。しかし、最初から最後まで笑える場面は多く、コメディ映画としては成功している部類だと思う。

 僕がこの映画で注目したのは、音楽を担当したのがウィリアム・ボルコムだという点。プレス資料にはまったく触れられていませんでしたが、ボルコムはアメリカでも有数のポピュラー音楽研究家で、特に前世紀末から今世紀始めにかけての舞台音楽には造詣の深い人です。現代音楽の作曲家として数多くの曲を書き、レコードやCDなども何枚か出ていますが、むしろピアニストとしての活動に素晴らしいものがある。スコット・ジョプリンやガーシュインのピアノ曲に関しては、この人の録音がベストだと思います。長年パートナーとして活動しているメゾソプラノのジョーン・モリスと、ガーシュン、バーリン、カーンらの歌曲を録音した名盤もあります。今世紀初頭の舞台で歌われた曲ばかりを集め、ボルコムがピアノを演奏し、ジョーン・モリスが歌った「アフター・ザ・ボール」というアルバムも僕の愛聴盤。そのモリスは、今回のサウンドトラックにも参加しています。

 監督のジョン・タトゥーロは、ボルコムのこうした経歴を当然知った上で、この映画の音楽を依頼したのでしょう。古色蒼然たる今世紀初頭の舞台が、ボルコムの音楽によっていかにもそれらしい風情をたたえています。ただし、映画音楽としてはそれ以上の工夫がありません。せっかく映画を幕間ごとに区切っているのだから、音楽も前奏曲から始めて、劇中曲、間奏曲、最後のフィナーレなどをきちんと型にはめて作った方が面白かったような気がします。もっとも、そうするには映画の構造そのものを少しアレンジせねばならず、音楽の研究家ではあっても映画音楽には素人のボルコムに、そこまでの発言権はなかったのかもしれませんが……。

 映画はタトゥーロ演じる劇作家中心に進んで行きますが、面白いのはむしろ、主人公の周辺にいるさまざまな人物像。主人公の劇作家は、映画の中では狂言回しです。ただ、その狂言回しが映画の最後に中心に押し出されてきたまま、フィナーレになってしまう。ここは主人公を後ろに下げたまま、映画の幕を閉じてほしかった。

 クリストファー・ウォーケンやスーザン・サランドンの方が、主人公よりはるかに面白い人物として描かれている。特にウォーケンには大いに笑わせてもらいました。

(原題:Illumminata)


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