ヨハネスバーグ・レイプ・ミー

1999/03/16 映画美学校試写室
原題は「レイプしないで」なのに邦題はなぜか逆になった。
イアン・ケルコフが祖国南アで撮った異色作。by K. Hattori


 現在はオランダで活動しているイアン・ケルコフ監督が、出身地である南アフリカの現状を演劇仕立てで描いたブラック・コメディ。登場人物は、黒人青年、アフリカーナ(白人)の青年、外国人の白人青年の3人。物語はオムニバス劇風で、この3人がそれぞれのエピソードで役割を入れ替えながら進行して行く。それぞれのエピソードに表題がついているわけではないが、エピソードの切れ目は歴然としている。内容はバラバラ。観ていてすごく面白いエピソードもあれば、すごくつまらないと感じるエピソードもある。もっとも、この映画の主張をすべて理解するには、南アの複雑な政治状況そのものを理解する必要があるのかもしれない。

 この映画でケルコフ監督が訴えようとしたメッセージの土台には、この作品が作られた時点で南アが抱えていた社会問題がある。ところが僕は新聞の見出し記事程度しか南アについての知識がないので、映画が論じようとしている問題の前提そのものが、まったく理解できていない。結局、僕が面白がっているのは、この映画が持つ不条理劇としての要素だけなのだ。日常のささいな出来事がいきなり暴力的な場面に入れ替わる場面は映画『狂わせたいの』みたいだし、主人公たちが猥雑な言葉で政治問題を語る場面はゴダールの『中国女』みたい。『狂わせたいの』には最初から深刻なテーマなどないし、『中国女』も今や政治メッセージは薄れ、映像テクニックだけの作品になっている。本来は政治的な映画であるはずの『ヨハネスバーグ・レイプ・ミー』も、南アの政治状況に興味や知識がない人間にとっては、単なるドタバタや不条理ギャグになってしまうのです。

 僕が特に面白いと思ったのは、ふたつのエピソード。偶然バスに乗り合わせた黒人青年と白人男性が話をしているうちに、どういうわけか突然黒人青年がピストルを相手に突きつけて、「『俺はボスだ』と言え!」「俺をむち打ってくれ」「さあ、俺を犯すんだ!」と無理難題をふっかけるオープニングはケッサクだった。映画の中盤では、レイピストの歌を大声で歌いながら3人の男たちが街を練り歩くという、『踊る大紐育』もびっくりの路上ミュージカルが観られる。これもかなりヘンだぞ。

 もともとは16ミリで撮影されていた作品のようですが、今回はビデオでの上映。上映時間は1時間11分。短い寸劇を数珠つなぎにした構成ですが、資料ではこの作品を『ドキュメンタリーとフィクションの間を行き来する、まったく新しい政治映画』と定義している。この映画のどこが「ドキュメンタリー」なのかと言うと、これを実際に南アのヨハネスバーグで撮影しているという部分だけだと思う。寸劇そのものはオランダで撮影してもいいのに、わざわざ南アまで行って撮っているのは、もちろんその芝居の背後にある南アの空気感まで撮影してしまおうという意図によるものでしょう。芝居の背後にいる人たちは、現地の人たち。そういう意味では、やはりこの映画は一種のドキュメンタリーなのかな。

(原題:NICE TO MEET YOU, PLEASE DON'T RAPE ME!)


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