きみのためにできること

1999/03/15 シネカノン試写室
若い録音技師と傷心のバイオリニストの淡い心の交流。
『月とキャベツ』の篠原哲雄監督作品。by K. Hattori


 先週の金曜日に『洗濯機は俺にまかせろ』を観たばかりなので、土日をはさんで続けざまに篠原哲雄の作品を2本観たことになる。'93年のデビュー作『草の上の仕事』以来、'96年の『月とキャベツ』、'97年の『悪の華』、そして今年が『洗濯機は俺にまかせろ』と『きみのためにできること』と、若手監督(といっても37歳だけど)としては精力的に作品を発表している篠原監督ですが、僕は『草の上の仕事』以外は全部観ています。『月とキャベツ』は「泣ける邦画」として今でも人気があるようですが、そのファンにとっては、この『きみのためにできること』は待ちに待っていた映画ではないでしょうか。この映画には『月とキャベツ』でヒロインのヒバナを演じた真田麻垂美が出演していますし、主人公の友人を演じた鶴見辰吾もゲスト出演しています。

 主人公の高瀬俊太郎(柏原崇)は、テレビのドキュメンタリー番組を作るプロダクションで録音技師をしている。幼なじみで恋人の吉崎日奈子(真田麻垂美)は、千葉で実家の造酒屋を継ぐため修行中。ふたりは電子メールと電話で連絡を取り合っているが、直接会う機会がなかなかとれないのが悩みの種だ。高瀬は取材で沖縄の宮古島に行く。取材チームは高瀬の他に、カメラマンの西田(大杉蓮)、ディレクターの近藤(田口浩正)、ADの若林(倉持裕之)と、レポーターのバイオリニスト鏡耀子(川井郁子)の5人。だが紅一点の鏡耀子は仕事に身が入らず、何をやっても上の空。なかなかチームの中にとけ込めず、チームの中にも不協和音が生まれる。

 この映画のキーになる人物は、間違いなくバイオリニストの鏡耀子。ところがこの人物に、僕はあまり魅力を感じなかった。演じている川井郁子は、『絆』で女優としてデビューした本物のバイオリニスト。『絆』の時は演技以前の素人芝居で、「話題性だけでキャスティングするなよ!」と思いましたが、今回の映画では芝居もだいぶこなれている。今回の映画でも得意のバイオリン演奏を披露しているのだが、それが物語の中で特に重要な位置を占めていないのが残念。なぜバイオリニストが地味な紀行ドキュメンタリーのレポーターをしているのか、説明が一切ないのも不自然だ。彼女がなぜ取材クルーになじめないのか、なぜ仕事がぎこちないのか。おそらく彼女は、この取材がレポーターとしての初仕事なのでしょう。取材の仕事に興味があったわけではなく、取材先の宮古島と、そこに住むある人物に会いたいという一念で、この仕事を受けたに違いないのです。彼女は有名なバイオリニストで、この紀行番組の目玉。でもそんな説明が一切ないから、「なんでこんなに協調性のない女をレポーターに雇ったんだ?」と思ってしまう。

 宮古島に住んでいるベテラン録音技師・木島を演じているのは岩城滉一。主人公が彼の家の外でもじもじしている場面は、どういうわけか「北の国から」に見えてしまった。岩城滉一が料理を作ると、それは沖縄料理でも鉄板焼きでもなく、カレーに見えるしなぁ……。


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