セレブレーション

1999/03/10 映画美学校試写室
デンマークの新進監督トマス・ヴィンターベアが描く家族のドラマ。
'98年カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した作品。by K. Hattori


 デンマークで『キングダム』『奇跡の海』のラース・フォン・トリアー監督らと共に映画集団「ドグマ95」を結成した、トマス・ヴィンターベア監督の日本初紹介作品。「ドグマ95」はハリウッド型の映画作りに反抗し、「清貧の誓い」という独自の映画製作10箇条を宣言している。曰く「1.撮影はロケーションで、小道具やセットの持ち込みは不可」「2.背景音以外の音楽は使用不可」「3.カメラは手持ち」「4.人工的な照明を排したカラー映画であること」「5.オプチカル処理やフィルターの使用不可」「6.殺人や武器の使用、爆破などの表面的アクションは禁止」「7.時間的、地理的な乖離は禁止」「8.ジャンル映画は禁止」「9.35ミリ・スタンダードサイズ」「10.監督はクレジットに載せない」。こうしたがんじがらめの規制を自らに課すことによって、今や何でもアリになってしまった映画製作のスタイルを見直し、よりクリエイティブな可能性を模索しようというのが彼らの主張なのだ。『セレブレーション』はこのテーゼに忠実に作られた作品だが、映画製作における規制の存在と映画の面白さが、まったく別次元のものであることが証明されていると思う。

 資産家の父ヘルゲを持つ姉弟たちが、父の60歳の誕生日を祝うため、郊外の屋敷に集まってくる。招かれているのは姉弟の他に、父親の友人、仕事仲間、親戚などです。長女ヘレーネ、長男のクリスチャン、次男のミケルは、それぞれ独立して、父の援助のもと事業家として成功している。しかしひとりだけ家に残った次女のリンダは、数ヶ月前に屋敷の自分の部屋で自殺したばかりだ。家族の中では、リンダの死について語ることが一種のタブーになっている。誕生パーティーが始まると、挨拶に立ったクリスチャンが爆弾発言をする。「父は子供だった僕と妹を繰り返しレイプした」「妹が自殺したのは父親のせいだ」。しかし来客たちのほとんどは、クリスチャンのこの発言をあえて無視しようとする。兄の言葉に激怒したミケルは、パーティー会場から兄を放り出す。クリスチャンは若い頃から精神的に不安定なところがあり、長期の療養を受けていたこともあるのだ。はたして、クリスチャンの発言の真意はどこにあるのか。父親が子供たちに、性的虐待を加えていたというのは事実なのか。パーティーの長い夜がこうして始まった……。

 平和な家庭の下に隠された、薄汚れた過去。高潔な人物だと思われていた男の知られざる一面が暴露され、それが集まった人々を動揺させる。人は自分が受け入れたくない真実から目を背け、我先に逃げ出そうとするのだ。だが明らかにされた真実は、目の前にごまかしようもなく立ちふさがる。目を覆い、耳をふさぎ、顔を背けても、一度回り始めた歯車は止まらない。すべてが終わった翌朝、何事もなかったかのように朝食をとる人々の中には、穏やかで平和な時が戻っている。だが、たった1晩ですべては大きく変わっている。この物語に、安直なハッピーエンドなど決して訪れないのだ。

(原題:The Celebration)


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