カラオケ

1999/02/23 銀座ガスホール
中年になった中学時代の同級生たちがカラオケで熱唱する。
俳優・佐野史郎の初監督作品。面白い。by K. Hattori


 個性派俳優として知られる佐野史郎の初監督作。物語の原案は佐野史郎本人の書いた長編小説「ふたりだけの秘密」なので、今回彼は監督・原案・出演とひとり3役の大活躍だ。40代にさしかかった中年男女が故郷の町で中学校時代のささやかな同窓会を開き、その二次会でカラオケになだれ込む。ほのかな初恋の思い出、伝えられなかった気持ち、現在の生活に対する不満、30年間心の中に押し込んできた気持ちの数々が、懐かしのメロディーと共に次々とよみがえってくる。主演はNHKの朝ドラ「ふたりっ子」のお父さん役で知られる段田安則。同級生役に佐野史郎、黒田福美、野口五郎、美保純、柴田理恵、島崎俊郎。その他の脇役陣も顔の知れたベテラン俳優がそろい、新人監督の作品をサポートしている。

 面白い映画です。不惑の40代を迎えたいい年した大人が、中学時代に好きだった彼女が離婚して町に戻ってきていると聞いて、妙にソワソワ落ち着かない気持ちになったりする。自分にも家庭があるし、子供もいる。別に昔の女友達と、どうこうする気持ちがあるわけじゃない。でも落ち着かない。顔が見たくなる。そんな主人公の気持ちに、30代前半の僕もへんに感情移入してしまいました。中学時代の同級生が中年になってから同窓会で再会して恋に落ちる『コキーユ/貝殻』という映画もありますが、『カラオケ』はそんな生々しさとは無縁です。何しろ主演が段田安則だし、彼は映画の冒頭でぎっくり腰になって、自由に身動きがとれないのです。これではいくら彼女といい雰囲気になっても、とても「不倫」なんて気持ちまでは動いていかない。

 出演俳優たちが芸達者ばかりなので、芝居については安心して見ていられる。演出ぶりも水準以上で、ところどころにややぎこちない部分もありますが、それもデビュー作ならではのご愛敬レベル。全体にほのぼのムードのユーモラスな映画で、場面によっては爆笑できます。野口五郎がとにかくおかしい。本職の歌手にカラオケを歌わせるというアイデアだけでなく、ちゃんとそれぞれの場面がギャグとして成立しています。歌っているときの表情をたっぷり見せるだけで、思わず吹き出してしまうのだからすごい。カラオケ・シーンは爆笑の連続でした。『カラオケ』というタイトルから『のど自慢』の亜流かとも思ったのですが、のど自慢は大勢の人に自分の歌を聴かせるのが目的で、カラオケは自分の歌に酔うのが目的なんですね。これは楽しかった。

 こんなに面白い映画なのに、最後のオチの付け方には疑問が残る。それまで日常描写の積み重ねで物語を進行させていたのに、なぜ最後になって主人公の心象風景めいた場面で締めくくってしまうのだろう。最後の締めがピシッと決まれば80点ぐらいはあげられる映画なのに、最後の最後にこうして観客を煙に巻いてしまうのは、なんだか手抜きのようにも思えてしまう。プレス資料にはこの場面での主人公の気持ちが解説してあるのですが、映画からはそれがストレートに伝わってこないよ。


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