54
フィフティ・フォー

1999/02/18 日本ヘラルド映画試写室
実在したディスコ〈スタジオ54〉を舞台にした青春映画。
20年前の風俗は懐メロ的面白さ。by K. Hattori


 1970年代後半から'80年代にかけてニューヨークに実在した、ディスコ〈スタジオ54〉を舞台にした青春ドラマ。映画の背景になっているのは、このディスコが最盛期を迎えた1979年。当時最先端のこのディスコには、日毎夜毎に有名人たちが来店し、華やかな乱痴気騒ぎを起こしていた。映画にはその様子が逐一再現されているのだが、別の表現をすれば「映画『巴里のアメリカ人』の最後に出てくる仮装パーティーを、もっと淫らでスキャンダラスにしたもの」とでも言えばいいのだろうか。〈54〉の入り口ではオーナーのルベル自身が厳密な入店チェックをし、店の雰囲気にそぐわないものは容赦なくはねつける。こうして入店者は、「選ばれたものの名誉」をかみしめられる仕組みになっているのだ。

 主人公のシェーンは、ニューヨークの対岸ニュージャージーでガソリンスタンドの店員として働く19歳の若者。彼は〈54〉に憧れ、知人のコネを使ってウェイターの職につくことに成功する。最初は田舎者扱いされていたシェーンだが、ウェイター仲間のアパートに居候し、少しずつ華やかな生活にも慣れ、やがてバーテンに昇格。「シェーン54」と呼ばれる、店の花形にまで上り詰めた。だがそんな繁栄も、長くは続かなかった……。

 物語は『ブギー・ナイツ』に似ている。家庭に居場所のない青年が、虚栄と虚飾の世界に溺れる物語。両方とも実際にモデルのある物語で、当時の風俗を完璧に再現したのも同じ。サウンドトラックに当時の音楽を使っているのも共通している。だが映画の中盤以降は、『ブギー・ナイツ』の方が一枚上手。『54/フィフティ・フォー』では主人公の若者が自分の属している世界の欺瞞性に気づき、そこを卒業していってしまう。これって結局、「俺も昔はさんざんワルやったぜ」というオヤジの自慢話と変わらないんじゃないだろうか。あるいは「昔はよかった」というノスタルジー。僕はこの映画を、ひどく保守的なものに感じます。今のアメリカは、そんなにつまらない国になってしまったのだろうか。

 〈スタジオ54〉のオーナー、スティーブ・ルベルを演じているのは『オースティン・パワーズ』のマイク・マイヤーズ。30代半ばで人生の絶頂を迎え、46歳で死んでしまったルベルは、人生を太く短く生きた人。その強烈な個性の方が、この映画に描かれている他のどんなエピソードより面白そうです。主人公周辺の恋愛沙汰や、くだらない痴話喧嘩より、僕はもっとルベルにスポットを当ててほしかった。ひょっとしたら、マイヤーズの演技にコクがないのかな。何度も比較して気が引けるけど、『ブギー・ナイツ』のバート・レイノルズは、出番のわりには存在感たっぷりだったもんね。ルベルにもあれぐらいの貫禄があればなぁ……。

 シェーン役のライアン・フィリップや、同僚グレッグ役のブレッキン・メイヤーは素晴らしい。そのくせ、ネーヴ・キャンベルやサルマ・ハエックなどの女優陣がいまひとつ光っていないのも残念でした。

(原題:54)


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