木と土の王国
青森県三内丸山遺跡'94

1999/02/09 東宝東和一番町分室試写室
野球場建設予定地から突然現れた縄文時代の巨大遺跡。
遺跡発掘のノウハウがじつに興味深い。by K. Hattori


 青森県で本格的な発掘調査が始まった、三内丸山遺跡の発掘ドキュメンタリー。「縄文映画三部作」の1作目にあたる本作では、遺跡発掘に至るいきさつや、数百人を動員しての大規模な発掘作業の様子を描いていく。この映画が撮影されている時点では、まだ遺跡の恒久保存が決まっていなかったため、すぐ隣で野球場の建設工事が行われている中、人々は時間に追われながら発掘している。この映画は考古学にまったく興味のない人が観ても、発掘がどのような順序で行われるのか、よくわかる仕組みになっていて、素人である僕にも興味深かった。

 発掘作業に大量動員されている女性たちは、ほとんどが考古学に無関係な近隣の主婦たち。ごく普通のおばちゃんたちが、小さなスコップ片手に遺跡を掘り進める内に、指先に伝わる土の感触だけで地層の微妙な違いがわかるまでに熟練した、発掘のプロフェッショナルになって行く。バラバラになった土器を個別により分けたり、わずかな地層の違いをスコップの刃先で土一層だけ残してはぎ取っていったり。こうした発掘のプロが、ほとんど主婦のパートタイムだというのには驚いてしまう。

 あらかじめ続編の『縄文うるしの世界』を観ていたので、数年間に渡る遺跡発掘と保存の様子がわかって面白かった。『縄文うるしの世界』では遺跡に縄文時代の住居が再現展示してあったが、地面にあいた穴ぼこだけで、なぜその上にある建物が再現できるのか。じつは穴には大小や角度の違いがあって、そこからかなり正確に住居の形が推測できるのだ。こうした作業があるからこそ、発掘で土塊を少しずつ取りのけて行く作業が重要になる。最新の考古学研究は、おばちゃんたちのスコップ次第ということだろうか。土器の分別作業も、最初に現場で袋に取り分けるときに間違いがあったのでは、その後の作業が大きく食い違ってきてしまう。「このかけらはこっちかしら?」「違うわよ、こっちよ」「たぶんこっちね」「じゃあ、ついでにこれも」などと、井戸端会議のようにおしゃべりしながら無造作に袋詰めして行く作業が、日本の考古学を底辺で支えているのだ。

 この映画が撮影され始めた段階では、三内丸山遺跡はまだまったく無名で、調査が一通り終わったあとは、そこに野球場を作るはずだった。この遺跡が一躍脚光を浴びるのは、クリの木で作った太い柱が、正確な距離を保ちながら建てられていた跡が発見されたからです。高さが推定10数メートルから20メートルというこの建物が、はたしてどんな役目を果たしていたのか。そもそも、重さ10トン以上もある柱を、どうやって地面に立てることができたのか。すべては謎ですが、謎だからこそ、専門家やアマチュア研究者も巻き込んだ大論争になり、遺跡は大勢の人が見学に来る観光スポットになったのです。でもこの映画では、そうした局所的話題にとどまらず、遺跡全体をまんべんなく紹介しようとしている点に好感が持てます。この映画を通じて縄文時代のことを考えると、なんだかワクワクしてきてしまいます。


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