エネミー・オブ・アメリカ

1999/01/22 イマジカ第1試写室
政治家暗殺事件の証拠を渡された弁護士がNSAに追われる。
トニー・スコットの演出はまさに名人芸。by K. Hattori


 兄のリドリーに比べると映画ファンの評価が不当に低い、トニー・スコット監督の最新作。製作者であるジェリー・ブラッカイマーとの黄金コンビが復活し、じつに見応えのあるスリルとアクションを作り出している。ブラッカイマーは耽美的な現代版吸血鬼物語『ハンガー』でデビューしたトニー・スコットをアメリカに招き、『トップガン』『ビバリーヒルズ・コップ2』『デイズ・オブ・サンダー』などを次々に作らせてヒットメーカーに仕立てた人です。潜水艦サスペンス映画の傑作『クリムゾン・タイド』も、ブラッカイマーとスコット監督のコンビ作。僕は「今やリドリー・スコットよりトニー・スコットの方が実力は上である」と考えているし、ブラッカイマーとトニー・スコットのコンビ作にも失望したことがないので、この映画は本当に楽しみにしていた。ちなみに主演のウィル・スミスも、ブラッカイマー製作の『バッド・ボーイズ』でスターになった俳優です。

 早朝の公園。テロ対策のために国民のプライバシーを犠牲にしようとする「盗聴法案」に反対する下院議員が、法案を通過させて勢力を伸ばそうとするNSA(国家安全保障局)の職員に殺された。暗殺は事故に偽装されたが、野鳥観察用の無人ビデオカメラが、偶然その一部始終を録画していた。ビデオの内容に気づいた男はNSAのエージェントに殺されるが、その直前に偶然会った弁護士のロバート・ディーンにビデオを託す。だがディーンは、自分がそんな物騒な物を渡されたとは夢にも思わない。やがてディーンの周囲にも、NSAのエージェントが現れる。彼らはあらゆる情報操作と盗聴追跡装置を駆使して、ディーンを抹殺しようとするのだが……。

 「国民をテロから守る」という大義名分のもとに、個人のプライバシーが丸裸にされてしまう恐怖。「悪人にプライバシーがないのは仕方がない」「平凡な一市民のプライバシーに国家が興味を持つはずがない」と考えていたディーンは、自分の知らぬ間に「国家の敵」として暗殺のターゲットにされてしまう。自宅には隠しカメラが取り付けられ、電話は盗聴され、身体に発信器をつけられ、街頭での会話は集音マイクですべて録音され、電話の通話記録や銀行の取引記録が分析され、マスコミの情報操作で弁護士の仕事を取り上げられ、クレジットカードも使えなくなる。人工衛星、ヘリコプター、商店の監視カメラなどが、ディーンの行動をくまなく追跡し、腕っこきのエージェントが彼の命を狙う。

 NSAは最近のアメリカ映画やテレビドラマで、しばしば国家の陰謀や謀略の温床として描かれる、国防省内部の諜報組織。その実態については謎の部分が多いのだが、この映画に描かれている技術の多くは、すべて実用段階にあるものらしい。映画は後半になって、主人公ディーンの反撃を痛快に描くのだが、実際に技術を悪用されたら、普通の人間はひとたまりもないだろう。この映画はエンターテインメントであると同時に、個人と国家の利益対立を描いた社会派作品にもなっている。

(原題:ENEMY OF THE STATE)


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