悦楽晩餐会
または誰と寝るかという重要な問題

1999/01/21 東宝東和一番町分室試写室
イタリアン・レストランに集う人々の欲望の果てにあるものは……。
ドイツで大ヒットした大人のコメディ映画。by K. Hattori


 ドイツ・ミュンヘンにある1件のイタリア料理店を舞台にした人間喜劇。原題はシンプルに店の名前を取って『ロッシーニ』だが、日本では『悦楽晩餐会/または誰と寝るかという重要な問題』という仰々しいタイトルが付けられた。ドイツでは『フィフス・エレメント』や『フル・モンティ』を上回るヒットとなり、『ビヨンド・サイレンス』が持っていたドイツ映画の興行記録をあっさりと塗り替えた作品だというが、こんな作品が大々的にヒットしてしまうドイツという国は不思議だ。この映画が大受けするということは、ドイツの映画観客というのは相当にひねくれているのか、あるいは映画に対する感度が高いのか……。よくわからない。

 結論から言えば、これはすごく面白い映画です。レストランが舞台でタイトルが『悦楽晩餐会』なので、最初はグリーナウェイの『コックと泥棒、その妻と愛人』みたいな作品を想像しましたが、むしろ味わいは『パリのレストラン』や『シェフとギャルソン,リストランテの夜』に近い。男女のきわどい関係、信頼と裏切り、生と死、むき出しの欲望などがたっぷり詰まった映画ですが、それをじつに上品に見せているのがうまい。ドロドロでゴテゴテの田舎料理ではなく、見た目に美しく口当たりのいい洗練された料理に仕上げているのです。レストランが舞台のくせに、この映画には豪華絢爛なディナーはまったく登場しないのも面白い。出てくる料理で印象に残るのは、ベストセラー作家の食べるニョッキと、最後に店の主人が食べるスパゲティぐらいです。

 複数の登場人物が入れ替わり立ち替わり登場し、それぞれのエピソードが交錯して行くグランドホテル形式。レストランのなかで一番の話題になっているのは、世界的ベストセラー小説「ローレライ」の映画化話。レストランには原作者の作家、映画のプロデューサー、監督、出資者である銀行家、主演女優を目指す女たち、このニュースをすっぱ抜こうとする女性ジャーナリスト、ことの成り行きを見守ろうとする野次馬たちが入り乱れる。この映画の面白さは、各人物の行動にまったく予想がつかず、5分後に何が起こっているかまったくわからないこと。はたして映画は無事に完成するのか。主演女優は誰になるのか。もつれた男女関係の行方は。レストランの中の人間関係は混乱と収拾を繰り返し、物語は常に二転三転して、最後はおさまるべきところにおさまる。

 悲劇と喜劇の強烈なコントラストに、涙を浮かべつつ爆笑するシーンの数々。女に振られて涙ぐむレストランの主人が、次の瞬間には目の前の別の女を口説いているおかしさ。繊細さと無神経さが同居したこのシーンは、おそらく映画の中でもっとも面白い場面のひとつです。

 この映画の面白さを、言葉で伝えるのはかなり困難。輸入業者がどんなつもりでこの映画を買い付けたのかは知りませんが、配給会社はたぶん売るのに苦労するでしょう。ヘンテコな邦題も、そうした苦労の現れだと思います。個人的には気に入った映画なんですけどね。

(原題:Rossini)


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