沈黙の陰謀

1999/01/19 ヤマハホール
スティーブン・セガールが細菌兵器をばらまくテロリストと戦う。
テーマはいつも同じ「自然を大切に」だ。by K. Hattori


 もはや映画を観る誰もがシリーズ映画だとは信じていない、スティーブン・セガール主演の『沈黙』シリーズ最新作。定説では『沈黙の戦艦』と『暴走特急』が正式なシリーズで、他は全部日本の配給会社が勝手にシリーズにした、ということになってます。しかしここまで『沈黙の○○』というタイトルが普及したところを見ると、業界的にはセガールのアクション映画をすべて『沈黙』シリーズにしてしまうつもりらしい。これは映画興行より、ビデオにしたときの効果を考えているんでしょう。このタイトルなら、パッケージが棚に並んだときセガールの映画だとすぐにわかる。これぐらいの規模の作品だと、劇場での収入よりビデオの方が稼いでしまうので、どうしても劇場映画がビデオにすり寄ってきます。

 この映画でセガールが演じているのは、アメリカでも有数の知識と経験を持つ免疫学者ウェスリー・マクラーレン。彼はかつて政府の秘密研究所で、細菌兵器から国民を防衛する研究をしていたのだが、その過程で開発されたNRM37というウィルスが軍事目的に転用されたことに失望し、今はモンタナ州エニスの小さな診療所で町医者をしている。だが、研究所から盗み出されたNRM37は、狂信的右翼が率いるテロリスト・グループに盗み出され、エニスの町にばらまかれた。軍隊が出動して町を封鎖するが、軍が用意した解毒剤は効果を失っている。ウィルスの突然変異で、ワクチンが無力化してしまったのだ。テロリストたちも同じワクチンで身を守っていたため、次々発病してパニックを起こす。だが彼らは感染患者の検査データの中から、ウィルスに抵抗力を持つ人間を見つけだした。それはマクラーレンの娘ホリーだ。彼女の血液からワクチンを作ろうと、テロリストたちの魔の手がホリーに伸びる……。

 セガールの映画には「環境問題」をテーマにしたものが多いのだが、この映画にも同じテーマが脈々と流れている。『沈黙の要塞』では最後にセガールが演説を一席ぶって観客を大いに白けさせたが、最近は物語の中に巧みにテーマを織り込み、「自然を大切にしよう」「人間は自然に癒される存在なのだ」というメッセージを伝えることに成功していると思う。「アメリカ万歳!」「テロリストを力でねじ伏せろ!」といったテーマと違い、セガール作品のテーマはじつに素朴で万人受けするわかりやすさ。時にそれは、子供っぽい理想主義にすら見えてしまうほどだ。でも、それをちゃんとエンターテインメントにしているのだから偉い。今回は監督に『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の撮影監督だったディーン・セムラーを連れてきて、モンタナの美しい風景をスクリーン一杯に映し出すが、これだけでテーマに説得力が出る。

 老俳優L. Q. ジョーンズが、主人公の後見人的な役を演じていい味を出している。『沈黙の断崖』のクリス・クリストファーソンやハリー・ディーン・スタントンもそうだけど、セガールは老人が好きですね。この映画には、娘の藤谷文子も看護婦役でゲスト出演してます。

(原題:The Patriot)


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