白き処女地

1999/01/16 フィルムセンター
今世紀初頭のカナダを舞台に、ひとりの女性の成長を描く。
'34年のジュリアン・デュヴィヴィエ監督作。by K. Hattori


 直前に観た『商船テナシチー』と同じ年に作られた、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の作品。『商船テナシチー』ではカナダに移民しようとする男たちを描いていたが、この映画では、カナダに入植した人々の姿を描いているのが面白い。ジャン・ギャバンが初めてデュヴィヴィエの作品に出演した記念すべき映画だそうですが、ギャバンは強力な脇役であって、主人公は開拓民の娘マリアです。この映画は主人公マリアに求婚する、3人の男たちを描いており、ギャバンは最初に脱落してしまう。僕はずっとギャバンの主演映画だと思っていたので、この途中退場には驚きました。映画を観終わって、この映画は黒澤明の『わが青春に悔なし』に似ていると思った。ヒロインの恋人が途中でいなくなり、その遺志を継いだヒロインがひとりでがんばり抜くところが同じです。

 映画はジャン・ギャバン演ずるフランソワという猟師が、冬の猟を終えて町に出てくるところから始まります。彼は5年ぶりに再会したマリアが、美しい娘に成長したことに驚き、いつしか彼女に思いを寄せるようになる。マリアと幼なじみの青年も、彼女にほのかな思いを寄せています。都会から森の中の小さな町にやってきた裕福な青年も、やはり美しいマリアに一目で心を奪われます。

 この映画の見どころは、雄大なスケールの屋外ロケーションと、スクリーンプロセスや二重露光を駆使した特殊撮影の効果です。映画のオープニングに登場するカヌーの群は、実際にカナダで撮影したのかな。雄大なカナダの自然を撮影した場面は、おそらくスタジオじゃ作れない。機械化された大農場の風景なども、おそらくはカナダまで撮影隊が出かけて撮ってきたのでしょう。二重露光で印象的なのは、恋人の帰りを待ちこがれるマリアのもとにフランソワの幻影がたずねて来て隣に座る場面と、マリアの母親が亡くなる場面で、彼女の目に映る友人たちの姿などです。

 スクリーンプロセスは、カナダで撮影された屋外シーンとスタジオ撮影の人物を合わせるためだけでなく、登場人物の心象風景を映し出すためにも使われています。一番効果的だったのは、厳冬の森の中でフランソワが道を見失う場面。映し出された風景がグラグラ揺れて、平衡感覚を失った人間の焦りのようなものが伝わってくる。この場面は、森を歩くフランソワと、彼のために祈るマリア、彼女を想うふたりの男たちの姿を巧みにコラージュして、映画の中のクライマックスになっています。スクリーンプロセスで2番目に印象的だったのは、裕福な青年がマリアに都会の様子を話して聞かせる場面。ここでは青年の話にあわせて、ふたりの人物の背景に都会の風景が現れては消える。この効果も抜群でした。

 原作の小説は人気があるようで、この映画の後もフランスとイギリス合作で1950年に1度、フランスとカナダの合作で1984年にもう1度再映画化されています。どちらも日本には輸入されていないようですが、フランス人にとっては「我らの物語」なのかもしれません。

(原題:Maria Chapdelaine)


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