のど自慢

1999/01/15 みゆき座
試写でも観たけど、劇場の初日にまた観てしまう面白さ。
泣ける、笑える、素直に感動。みんなも観よう。by K. Hattori


 この映画、最初に試写で観たのが昨年の5月7日。最初はシネカノン配給で昨年の秋頃公開の予定だったが、完成した映画の内容に東宝と松竹が目を付け、互いの正月番組として買い付けに走った。結果的に東宝が正月第2弾作品として獲得したわけだが、小さな製作配給会社の作品が、こうして大手チェーンの正月番組に格上げされるのは快挙と言える。映画の世界では、独立系のプロダクションが完成した映画を配給会社に持ち込むと、足元を見て買いたたかれるというのが常識になっている。「映画が上映されるだけでもありがたく思え」というのが、劇場を持つ映画会社の立場なのだ。しかしシネカノンは製作だけでなく配給もしているし、自前の劇場も持っているので、この点では他の独立プロより強い立場で交渉できたのかもしれない。こうした事態が起こったのは、何よりも既存邦画チェーンの番組不足、企画不足という現状もあるのだが、この映画がきっかけになって「いい映画を作れば、大手チェーンが好条件で買い付けてくれる」という映画流通の仕組みができれば素晴らしいことだと思う。もっとも、僕自身はそれほど物事を楽観的には考えてませんが……。

 松竹や東宝がプライドをかなぐり捨てて獲得に奔走しただけあって、この映画の面白さは折り紙付き。お馴染みNHKの「のど自慢」に出場する人々の姿を、面白おかしく、時に感動的に描いて、最後は爽やかな涙と笑顔で劇場を出られる第一級の娯楽映画です。今からこんな話をするのも気が早すぎるのですが、今年の年末から来年早々にかけて発表される各種の映画賞では、必ず上位にランキングされることでしょう。初日の劇場は大混雑とは言わないまでも、指定席以外はほぼ7〜8割が埋まる状態でした。映画を観た客の反応も良くて、おかしな場面では笑うし、しんみりする場面では劇場中が水を打ったように静かになる。最後に席を立つときは、何人かで来た人たちが互いに「面白かったね」と声を掛け合う風景も見られました。これは口コミ効果で、ロングランするかもしれません。この予想の中には、多分に僕の願望も入ってます。面白い映画がヒットして、多くの人に「日本映画も面白いじゃないか」と思ってほしいのです。

 前回1度観たとはいえ、なにぶん半年以上前の話なので、映画の細部をほとんど忘れていて、それが逆に新鮮でした。面白い場面では僕も一緒に笑い、泣かせる場面では素直に泣いてしまった。どこが泣けるって、それは「ジョニイへの伝言」と「花」でしょう。「ジョニイへの伝言」で見せる、あざといまでのカットバック・テクニック。さらに「花」の後の伊藤歩の台詞……。泣くとわかっていて、やはり泣いてしまうのです。泣きたいからその場面を待ちかまえている、という傾向もあるけどね。この映画は、泣かせた後にすぐコミカルな場面を持ってきて、へんに話がベタベタしないのもヨロシイ。

 映画の最後に続編の予告編が流れるので、エンドタイトルになっても席を立ってはいけません。


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