マリリン・モンロー
ライフ・アフター・デス

1999/01/09 BOX東中野
死んでアメリカの女神となったマリリン・モンローの記録映画。
素顔のモンローはじつにチャーミング。by K. Hattori


 1950年代のハリウッドで活躍し、アメリカのセックスシンボルとして今も君臨し続けるマリリン・モンローについてのドキュメンタリー。といっても、これはマリリン・モンローという「個人」についての記録や証言ではない。強いて言うなら、マリリン・モンローという「故人」についての記録と証言集だ。映画はモンローの死後に発見された膨大な写真から始まり、モンローの葬儀を当時の記録フィルムと関係者の証言で再現し、死んでしまったハリウッド女優が、いかにして人々の心の中に生き続けているかを克明に映し出していく。

 『ライフ・アフター・デス』というタイトルの通り、これはマリリン・モンローの「死」から始まる映画なのです。スターへの道、映画の中に映されることのなかったモンローの素顔、今も謎が残る死の真相など、モンローの「生前」も間接的に描かれているものの、この映画のメインテーマではない。むしろここで大きく取り上げられているのは、'62年に謎の死を遂げたモンローが、そのあと人々の記憶から忘れ去られることなく、むしろセックスシンボルとして神格化され、生前は顧みられることのなかった演技派女優としての面を再評価され、永遠に人々の中に生き続ける特別な地位を手に入れる様子を描いているのです。生前のモンローは、必ずしも幸福な人生を送ったとは言えませんが、「死後の生」をこれほど充実させた女優も珍しいと思います。同時代に活躍した他のどんなスターより、マリリン・モンローは特別です。彼女に匹敵するぐらいハリウッドで神格化されているのは、チャップリンぐらいかな。でも彼はイギリス出身の外国人だから、やはりアメリカ人にとって生粋のアメリカ人であるモンローは特別なのでしょう。

 マリリン・モンローの伝記は、たいてい彼女の不幸な少女時代や男性遍歴、ハリウッドでの活躍、本格女優への脱皮、ケネディ兄妹とのスキャンダル、謎の死あたりまでを描くのが定番コースです。ミラ・ソルヴィーノとアシュレイ・ジャッドがモンローを演じた『ノーマ・ジーンとマリリン』も、モンローの死で終わっていた。それに対してこの『マリリン・モンロー/ライフ・アフター・デス』は、従来のモンローものが必ず描くエピソードを自明のものとしてバッサリとカットし、かわりに晩年親交のあった友人たちのインタビューや、プライベートで撮影された写真やフィルムがたっぷりと詰まっている。普通の映画がエンディングにしているところを、映画のスタートにしている点はユニークだし、目の付け所が面白いと思う。死から始めた伝記映画は、普通そこから過去にさかのぼって行くのですが、この映画は死から先へ先へと時間を進んで現代に至るのです。

 この映画には、モンローの出演映画からの引用がほとんどありません。登場するのは、プライベートな彼女の素顔だけ。そこで描かれるモンローは、なんともチャーミングなひとりの女性なのです。その微笑みは、メグ・ライアンやキャメロン・ディアスなんて目じゃないよ!

(原題:Marilyn Monroe / Life after Death)


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