純子引退記念映画
関東緋桜一家

1999/01/08 浅草名画座
昭和47年に製作された、東映仁侠映画最後の大作。
ラストシーンが甘いし、演出も大味。by K. Hattori


 昭和47年製作の東映仁侠映画。『緋牡丹博徒』シリーズで大人気の藤純子が、梨園の御曹司・尾上菊之助と結婚して引退するのを記念して作られたオールスター映画だ。出演は藤純子以下、高倉健、鶴田浩二、若山富三郎、菅原文太、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎などそうそうたる顔ぶれ。この映画は『人生劇場・飛車角』以来、足かけ10年に渡って東映を支えてきた仁侠映画の、実質的な最後を飾る作品としても知られている。映画の出来はさておき、「藤純子の引退」「最後の仁侠映画」という2点だけでも、日本映画史に名を残す作品だ。

 監督はカツドウ屋・マキノ雅弘。彼はこの映画を藤純子引退のはなむけにしようと努力したが、完成した映画は不本意なものだった。マキノ監督は自伝「映画渡世」の中で、『もっと一生の記念になるような映画を純子のために残してやりたかった』と嘆いている。『オールスター・キャストだから、一人一人のスターの顔をアップ、アップで撮らなければならないと言われ、これでは純子の引退と結婚のはなむけにはならないと思った。あんなものしかやってやれない東映にはいよいよ愛想がつきた。純子の九年間の努力にむくいてやれる内容ではなかった』『(映画には)純子の映画の何もかも詰め込んだが、逆にそのために内容は薄いものになった』と語っている。

 この映画について作家の小林信彦は、『「関東緋桜一家」はオールスター映画で、映画館は満員であったが、藤純子と高倉健が結ばれる、おそらくは〈仁侠映画〉初のハッピーエンドで観客はわれにかえり、白けた気持になった。この一作で大衆が〈仁侠映画〉が終わったような気持になったのが、同じ客席にいた一人として、よく理解できる』(現代〈死語〉ノート)と証言している。

 楽しいところも多い映画だし、見せ場もたっぷりあって、プログラム・ピクチャーとしては悪くない映画です。しかし、これを映画館で観た昭和47年の観客は、大スターであった藤純子の引退作品という特別な思いで、この作品を食い入るように見つめていた。この映画は、そんな観客の期待にまったく応えられなかった作品なのでしょう。映画のラストシーンで、藤純子演ずるヒロインが「皆さんお世話になりました。さようなら」と去って行く場面を観て、「引退作だからこのラストでいいのだ」という思いと、「このエンディングは仁侠映画のルールに反している」という思いとに引き裂かれてしまう観客の心が、映画の虚構に酔いきれない宙ぶらりんな気持を残してしまうのです。

 社会体制からはみ出したアウトローたちが、自分たちのモラルと正義を貫くために、最後は体制側の縄につくというのが仁侠映画の約束事だったはずです。体制側のルールに反逆しながらも、結局最後は体制側のルールで罪の償いを強いられる点に、アウトローの悲哀があるのではないだろうか。『関東緋桜一家』は、そうした仁侠映画の枠組みを飛び越えてしまう。東映仁侠映画は、最後のこの作品で、自ら作ったジャンルを否定したのです。


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