青い魚
blue fish

1998/12/22 映画美学校試写室
美容院で働く少女が、危険で謎めいた男に恋してしまう。
静かに燃え上がる恋に身震いする。by K. Hattori


 沖縄・那覇。美容院でアルバイトをしている知花涼子は、勤め先の向かいの部屋に住み着いた石野和也という男と親しくなる。どこか謎めいて、人を寄せ付けない雰囲気の和也に涼子は惹かれて行く。和也は台湾マフィアに追われて、身を隠しているのだ。そんな彼を、かつての恋人が訪ねてきた様子を見て、涼子はどうしようもない嫉妬を感じる。いつの間にか、涼子は和也を愛し始めていたのだ。この瞬間から、涼子の生活は一変する。

 相手がどんな人であれ、好きになってしまえば、その気持ちを容易に捨てることはできない。好きで好きで、自分の心と体がバラバラになってしまうぐらい狂おしく思う瞬間。口には出さなくても、恋の情熱はその人自身を燃やして行く。好きな人のことを考えるだけで、自分の体がうまく動かなくなって、全部がギクシャクし始める。抑えようにも、抑えられない感情。そんな恋の高まりが、これほど鮮烈に描かれている映画はなかなかないだろう。河瀬直美のカンヌ受賞作『萌の朱雀』に、従妹の少女が青年に恋心を告白する素晴らしいシーンがあったが、あの一瞬の場面が持っていた緊張感が、この『青い魚』の後半部分ではずっとキープされている。

 僕がこの映画で一番気に入ったのは、好きな男の後から夜道を歩いている涼子が、友人に後ろから呼び止められて振り向き、そのまま友人を無視して、また男の後をついて行く場面。この場面で見せる涼子の開き直りぶりは、見ていて恐いぐらいだった。彼女は映画の序盤で、わりとボンヤリした女の子に描かれているので、それとの落差が激しくてビックリする。この場面は、台詞がまったくないだけに劇的な効果を上げている。この後、涼子が彼の部屋に入って、「もう帰れ」と言われてもグズグズと帰れないでいる場面も緊張感があっていいのだが、シーンが台詞中心に組み立てられている分、その前の友人に呼び止められる場面に比べると一段落ちる。

 ちょうど60分の短編映画だが、芝居の濃密さに比べると、オープニングタイトルとエンドタイトルが間延びしすぎだと思う。導入部はもっとズカズカ本題に入ってしまった方がいいし、エンディングも手短にスパッと切り上げた方がいい。それで上映時間が1時間を切ったとしても、映画全体としてはテンションが上がったような気がする。このように無人の情景描写を長々と映すのは、何だかもったいぶっているようで嫌らしい。このオープニングとエンディングは、映画製作者側の心象風景であって、映画の中の登場人物とはあまり関係ないような気がするのだ。僕はこれを「『萌の朱雀』症候群」と名付けたい。カッコつけずに、自然体で映画撮ろうよ。

 主人公の涼子を演じているのは、モデル出身の大内まり。この作品が映画デビューとのことですが、いきなりこんな映画に出てしまうと、次からどうすればいいんでしょう……。もうこれ以上の作品はないと思うぞ。そのぐらい、彼女はこの役にはまってます。カメラで切り取られた沖縄の風景も素晴らしい。スゴイ映画です。


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