花のお江戸の釣りバカ日誌

1998/12/22 松竹試写室
人気シリーズのお正月用スペシャルは江戸時代が舞台。
これは本格的な時代劇コメディだ。by K. Hattori


 人気シリーズ『釣りバカ日誌』の番外編。ハマちゃんとスーさんの先祖が、江戸時代もやっぱり釣りバカだったというお話。シリーズでおなじみの俳優たちが、お侍になったり、長屋の住人になったりして、そのキャスティングだけでも結構笑えます。正月映画らしく、ゲストスターも多数出演。こういうアイデア自体は「新春スター隠し芸大会」と同じノリですが、それをわざわざ劇場公開映画にするところがスゴイのです。物語は『釣りバカ日誌』だけど、映画の作りは本格時代劇です。おそらくここ10年に作られた時代劇映画の中では、もっとも時代劇らしい作品だと思います。『釣りバカ日誌』のファンだけでなく、時代劇ファンにも観てほしい!

 時代劇では、いかにして時代考証を無視するかが大切です。時代劇というのは“お話”を盛るための器でしかないので、「江戸時代はこうだった」という時代考証が、時には邪魔っけになることもあるのです。この映画では、映画の中の台詞で「時代考証は知っていながら無視してます」と宣言している部分がいくつかあって、その割り切り方がなかなか痛快です。例えば、主人公のハマちゃんが住んでいる長屋が二階建てになっているのは、江戸時代の長屋の常識から考えて明らかにおかしい。でもそれについては、ハマちゃん自身が「このあたりの長屋は珍しく二階建てになってる」と言っている。ヒロインが黒木瞳では、当時の女性としてかなりの年輩ですが、これについても三國連太郎が「お前も適齢期をだいぶ過ぎて……」と指摘している。こうした地ならしがあるからこそ、映画の最後に「オー・ソレ・ミオ」が流れようと、西田敏行が『魔界転生』の天草四郎のような格好で宙づりになろうと、まったく違和感がなくないのです。

 メジャーの映画会社がお正月向けに用意した作品だけあって、お金も手間もたっぷりとかけてあります。江戸風俗の描写に、手間とお金がかけてあるのには感心しました。主人公たちが船で移動する際、川面に漁師の舟がひとつ浮かんでいるだけで、情緒がまったく違うのです。この映画は、最近の時代劇ではめったに見られないほど、エキストラがたくさん登場しています。美術セットも、力が入っているところにはすごく丁寧な仕事がしてある。ハマちゃんが住んでいる長屋なんて最高です。雨どいのヨレ具合が、いかにもなんだよね……。

 大河ドラマで吉宗を演じたこともある西田敏行ですから、時代劇はさまになってます。彼が海岸を馬に乗って疾走する「暴れん坊将軍」のパロディは、吉宗役者が吉宗のマネをするという意味で面白かった。そう言えば、中村梅雀も、大河ドラマで吉宗の息子をやってたな。

 主人公がヒロイン小浪(こなみ)を嫁にもらいたいという場面で、僕はようやく、これが伊丹万作の『赤西蛎太』の引用であることに気づいた。ヒロインの名前が「さざなみ=小浪=こなみ」で同じなのです。ボンヤリした男が藩邸でもっとも美しい女中のハートを射止める部分を、名作『赤西蛎太』と重ね合わせたのでしょう。


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