地球に落ちて来た男
(完全版)

1998/12/21 映画美学校試写室
'76年に制作されたデビッド・ボウイの映画デビュー作。
さすがにこれはカルトムービーだ。by K. Hattori


 デビッド・ボウイ主演のカルトムービーが、現在ビデオで見ることができるバージョンより20分ほど長い、2時間20分の完全版で日本初公開される。この映画が製作されたのは1976年で、今から22年も前の話。ところが内容的には少しも古びていないのだから、やはりこの映画はカルトムービーの名にふさわしい。この映画が公開された当時、人々がどのように熱狂したかについては、『ブレードランナー』(これもカルトムービー)の原作者であるフィリップ・K・ディックの長編小説「ヴァリス」に詳しく書いている。小説の主人公たちが観ている映画は『VALIS』だが、このくだりはディックや仲間たちが『地球に落ちて来た男』を観て興奮した時の様子が、そのまま再現されているのだ。それをふまえて「ヴァリス」を読むと、作中に描写されている映画『VALIS』の内容が手に取るようにわかる。

 砂漠化した故郷の星に妻子を残し、地球にやってきたニュートンは、発明家として巨万の富を築き、ロケットを建造して家族の待つ星に帰ろうとする。地球で知り合い、愛し合うようになったメリー・ルーを残して、宇宙に飛び立とうとする直前、ニュートンは政府組織に捕らえられてしまう。拷問じみた人体実験と軟禁生活の中で、ニュートンは数十年を過ごす。やがて世間がニュートンを忘れた頃、彼を軟禁していた者たちは突然姿を消した。外界に戻ったニュートンを、もはや誰も覚えていない。彼は故郷の星に戻ることもできず、巨万の富を抱えたままでひっそりと生きて行くしかないのだ……。

 物語はよくわからないし、特撮もチープ。しかし、デビッド・ボウイの圧倒的な美しさと、物語から漂ってくるムードだけで、2時間20分の長丁場を観せてしまう。小説「ヴァリス」にも書かれているとおり、この映画のオープニングはありものの記録フィルムをモンタージュしただけで、新たな撮影をまったくしていない。小さな池の中でダイナマイトを爆発させただけで、宇宙船が墜落したことを暗示させるとは強引だ。回想シーンで最初にニュートンの家族が登場したときは、あまりにもゲテものじみたコスチュームとメイクに思わず笑いそうになってしまいましたが、これが何度も登場すると慣れてきて、最後はちょっと涙ぐんでしまった。最近は「SF映画=特撮映画」と勘違いしているような作品ばかりだが、こういう映画や『ガタカ』のような作品を観ると、SF映画に必要なのはまず第一にセンスであることがわかる。

 そもそもニュートンがなぜひとりで地球にやってきたのかがわからないし、せっかく地球に来たのに、なぜすぐに帰ろうとするのかがわからない。彼が捕らえられる前後からは、時間の経過がすごくわかりにくい。共同経営者のオリバーや、恋人のメリー・ルーが急速に老けて行くことで、数十年の時間の流れを見せるだけだ。それでも主人公のデビッド・ボウイは絶対に歳を取らない。これは逆『ハンガー』状態。そうか、あの映画は『地球に落ちて来た男』へのオマージュだったのだ!

(原題:The Man Who Fell To Earth)


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