ノストラダムス

1998/12/08 東宝東和試写室
16世紀フランスに生まれた大予言者ノストラダムスの波乱の生涯。
キワモノにあらず。豪華な歴史大作です。by K. Hattori


 1999年の正月第2弾作品として、来年1月から銀座シネパトス他で華々しく公開される、1994年製作のアメリカ、イギリス、ドイツ合作映画。この映画は最初に東宝東和からプレス資料だけが郵送されてきて、「マスコミ試写はやりません」と言っていたんですが、結局何回か地味に試写を行ったみたいです。僕は最終試写に、何とか潜り込むことができました。

 タイトルだけ見ると、ノストラダムスの予言をビジュアル化した『ノストラダムスの大予言』や『ノストラダムス戦慄の啓示』のような映画を想像してしまうのですが、この予想は大ハズレ。中身は予言者ノストラダムスの伝記映画でした。主演は『ニキータ』『ドーベルマン』のチェッキー・カリョ。彼はハードな役が多いのですが、『心のおもむくままに』で見せていたようなロマンチックな役柄も無理なく演じられる俳優です。今回の映画では、そんなカリョの両面が出ています。

 ノストラダムスは著書『諸世紀』こそ有名ですが、その人柄や生涯については資料の少ない人です。この映画ではノストラダムス本人を描くだけでなく、当時彼が暮らしていたフランスの社会情勢を描くことで、物語に歴史絵巻としての厚みを出しています。僕はむしろ、そちらに興味を持ちました。この映画の時代考証は、かなり念入りです。当時はカトリックとプロテスタントの対立が深まる、ユグノー戦争前夜です。カトリック側の異端審問は激しく、異端審問官や火刑裁判所が人々を恐怖で震え上がらせ、プロテスタント側は翻訳した聖書を配り、教会に押し入っては聖像や祭壇を破壊しつくす。ユグノー戦争の時は、カトリック側がプロテスタント信徒を次々に虐殺する事件が横行したのですが、この映画からはそうした歴史の背景が見えてきます。

 ノストラダムスは医学と占星術をはじめ、当時の世界で最新の学問を身につけた教養人として描かれています。同時に彼は、幼い頃から世界滅亡のビジョンを見る幻視者でもあるのです。彼の教養は、教会が支配する偏狭な世界とは相容れず、しばしば「異端」「異教徒」として迫害され、幾度か死の危険にさらされる。最終的に彼は、フランス王アンリ2世の死を予言して、その妃カトリーヌ・ド・メディシスに信頼され、家族と共に平安な生活を得ることができる。この映画はそれ以降のノストラダムスを描いていませんが、彼はカトリーヌの息子であるシャルル9世の侍医として過ごすことになります。

 16世紀ヨーロッパの教会と人々の関係や、根強い女性差別、ペストの蔓延などが、ことごとく映像化されているのは見事。バレエの創生期や、カトリーヌの香水マニアぶりも、歴史的な事実です。ルーマニアの古い町並みを16世紀フランスの町に作り替え、衣装や小道具類にも気を配った美術に惚れ惚れし、アマンダ・プラマー、F・マーリー・エイブラハム、ルトガー・ハウアー、ジュリア・オーモンドなど、キャストも豪華。きわもの映画やバカ映画を期待すると、あまりの立派さに驚くぞ。

(原題:NOSTRADAMUS)


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