ムービー・デイズ

1998/12/02 ユニジャパン試写室
'60年代のアイスランドを舞台に、映画黄金時代の人々を描く。
細かなエピソードがどれも面白い。by K. Hattori


 永瀬正敏主演の『コールド・フィーバー』で知られ、最新作『精霊の島』の公開も控えている、アイスランドの映画監督フリドリック・トール・フリドリクソン。この『ムービー・デイズ』は、彼が子供たちの視点から1960年代初頭のアイスランドを描いた作品だ。なぜ時代がわかるかというと、映画の冒頭で主人公の少年が家族と一緒に観る映画が、MGMのキリスト映画『キング・オブ・キングス』だから。この映画は'61年製作だ。日本で言うと、昭和36年に相当する。日本の映画人口のピークは昭和34年なので、この時代はまさに映画黄金時代のピークが過ぎ、『映画の時代』にややかげりが出てきた頃だと考えていい。それでもこの頃、映画館は連日超満員。子供たちは歌う西部劇スター、ロイ・ロジャースの活躍に大声援を送り、家族連れは精一杯のオシャレをして映画館に向かうのです。

 映画のタイトルは『ムービー・デイズ』ですが、この映画の中で「映画」はひとつのモチーフでしかない。この映画で描かれているのは、『映画の時代』に存在した過去の風物です。例えばそれは、ラジオドラマだったり、近所に1台だけあるテレビだったり、ヤミ屋だったり、米兵相手のオンリーさんだったり、友人同士が集まった小さなパーティーだったり、牛の種付け屋だったり、隣家の共産党員だったりするわけです。『精霊の島』にも描かれていたことですが、日本とアイスランドは第二次大戦後にアメリカ軍が多数駐留したことで、アメリカ文化の影響を大きく受けている。(ちなみにアイスランドには今でも自前の軍隊がなく、国防はアメリカに依存しているようです。これも日本と同じ。)この映画を観て、僕はますますアイスランドという国に親しみを感じてしまった。それまではメルカトール式世界地図の左隅で不自然に肥大した島国という認識しかなかったアイスランドと、旧知の間柄のような気がしてくる。

 この映画は小さなエピソードが寄り集まってできていて、大きなドラマは目立たない。一応「父親の死」という大事件が用意されているのですが、物語の中ではクライマックスにならず、エピソードのひとつとして処理されている。したがってこの映画が楽しめるかどうかは、描かれているエピソードのひとつひとつを、どれだけ楽しめるかにかかっている。僕は楽しみました。どのエピソードでもニヤニヤしてましたし、中には声を出して笑ってしまうようなものもあった。

 この映画を観ると、当時の人たちにとって映画がどれだけ大切な娯楽であったかがよくわかる。同時に、同じような映画黄金時代が、今後二度と訪れないであろうこともよくわかる。映画黄金期は1950年代末から'60年代にかけての時代背景と共にあるものなので、他をさしおいて映画だけが復活しようと言っても無理なのです。一家総出で『キング・オブ・キングス』を観に行くには、一家揃ってラジオドラマに耳を傾けている下地がなければならない。この映画は、少しノスタルジックすぎます。

(原題:Biodagar)


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