自由な女神たち

1998/11/27 メディアボックス試写室
デトロイトのポーランド系アメリカ人一家を描いたホームドラマ。
ガブリエル・バーンがじつにいい表情を見せる。by K. Hattori


 デトロイトで暮らすポーランド系アメリカ人一家の物語。アイルランド系アメリカ人を描くエドワード・バーンズの『マクマレン兄弟』や『彼女は最高』、黒人一家を描く『ソウル・フード』などと同じ、アメリカのエスニック・グループを描いたホームドラマの秀作だ。アメリカ映画には、ユダヤ系やアイルランド系の家族がたくさん出てきますが、ポーランド系は珍しい。(ポーランド系のユダヤ人が、ホロコーストを逃れた人々として登場することは多い。)出演者は売れっ子のクレア・デーンズ、渋いガブリエル・バーン、いい女のレナ・オリンなど。監督・脚本はこれがデビュー作となるテレサ・コネリー。撮影は彼女の故郷である、デトロイトのハムトラムックで行われた。地元出身者らしい繊細な目配りで、風景を映し出しているのが見事です。

 15歳で結婚して以来、息子4人と娘ひとりを育て上げた母親ヤドヴィガの不倫問題と、15歳になった娘ハーラの妊娠が物語の中心。じつはヤドヴィガと夫ボレックが出来ちゃった結婚で、長男とその嫁も出来ちゃった結婚、そしてハーラもボーイフレンドと結婚前に妊娠。この一家は、そろって出来ちゃった結婚の家系なのだ。だから娘が妊娠したと聞いても、両親はまったく驚かない。問題になるのは、相手の男が結婚してくれるか否かだ。母と兄嫁ソフィはハーラにウェディングドレスを着せて、ボーイフレンドのラッセルのもとに押しかけ花嫁として送り出す。ラッセルが面食らって結婚をためらうと、今度は家族総出でラッセルの家に押しかけるのだ。このあたりは、時代がかっていて面白かった。

 ポーランド人のユダヤ人に対する微妙な距離感も、この映画には描かれている。ヤドヴィガが不倫している相手は金持ちのユダヤ人なのだが、一方で長男の嫁であるソフィには「流浪の民のくせに」と難癖を付けたりする。ちなみにソフィ役のミリー・アヴィタルはイスラエル出身のユダヤ人だが、この映画ではシリア人という設定。アメリカという新世界で暮らしながら、この人たちはそれぞれの国民性をいまだに引きずっているのだ。

 物語をリードするのはレナ・オリン扮するヤドヴィガとクレア・デーンズ演じるハーラだが、この映画が良質なホームドラマになり得ているのは、父親ボレック役のガブリエル・バーンの存在感が大きい。彼が娘に向ける優しい眼差しがいい。ハーラと末の息子と3人でタバコを回し飲みする場面が、僕はすごく気に入っている。耳の後ろからサッとタバコを取り出すしぐさもいい。しかしこの映画で彼が一番よかったのは、妻の浮気現場を目撃し、街頭にもたれてさめざめと泣く場面。この時の表情が「妻に裏切られた夫」ではなく、「恋人に振られた男」の顔になっているのが素晴らしい。この泣き顔だけで、彼がいかに妻を愛しているかが伝わってくる。今回の映画は、ここ数年にバーンが出演した作品の中でもでもベストの芝居だと思う。出来ることなら、僕もこんなお父さんになりたい。とにかく格好いいです。

(原題:Polish Wedding)


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