パフォーマンス

1998/11/24 ユニジャパン試写室
ミック・ジャガー扮する引退したロック歌手がギャングを誘惑。
1968年に製作されたカルト・ムービー。by K. Hattori


 製作は1968年。ミック・ジャガーが役者として初めて映画に出演した作品として、欧米ではカルト的な評価が定まっている作品が日本初公開。舞台は'60年代のロンドン。ジェイムズ・フォックス演ずるギャング組織の幹部チャスは、硬派で凶暴な性格がたたって警察と組織の双方から命を狙われることになる。アメリカに逃げるまでの時間稼ぎに、名前を偽ってロンドン下町に潜伏するのだが、そこで彼はミック・ジャガー扮する引退したロック歌手ターナーと知り合うことになる。ターナーとふたりの女の奇妙な共同生活に半ば嫌悪感を感じながらも、チャスはそこから外に出ることが出来ない。やがて彼は、ターナーの強烈な個性に飲み込まれて行く……。

 映画の序盤は典型的なギャング映画。長年組織のために献身的に働いてきたチャスが、組織を恨む男にリンチされ、身を守るために男を殺す。だが組織のボスは、それを自分に対する裏切りと感じる。いつもチャスを便利に使っていたボスが、チャスを簡単に切り捨てるのだ。ボスはチャスを始末することを部下に命じる。映画ではここまでを、非常に短いカット割りで描いている。これは「テンポがいい」とか、そういうレベルではない。導入部の目まぐるしいカットバックなどは、ドラマの流れを断ち切るほどで、正直言って最初は何が起こっているのかまったくわからない。画面の合成なども頻繁に行われ、一種異様な雰囲気だ。しかしそれによって、物語の中に引き込まれていくのも事実なのだが……。

 ミック・ジャガーが登場した中盤以降は、序盤にあった短いカット割りなどは姿を消す。映像をいじるより、被写体であるミックの姿や、彼の演じるターナーの生活ぶりをたっぷり見せようという主旨だろう。逃げ込んできたチャスにとって、ターナーの生活は想像を絶する怠惰なもので、彼の美意識とは決して相容れない。しかし彼は、身を守るためにその生活様式を身につける必要があるのだ。バリバリの武闘派ギャングだったチャスは、長髪のカツラをつけ、メイクをし、幻覚キノコで一発決めて、ターナーたちの生活になじんで行く。

 映画はチャスがベッドで荒々しく女を抱く場面から始まり、チャスとターナーのホモセクシャルな関係を思わせる場面で終わる。この映画にゲイを思わせる描写が多いのも、ゲイがファッションだった当時の世相を感じさせる。『ベルベット・ゴールドマイン』の世界を地でいっているのだ。この当時はゲイであることが、一種のステイタスだった。ゲイであることは、特別な能力や特権を飾るアクセサリーなのだ。ギャングのボスという権力者がゲイであることと、ターナーと彼の女たちがバイセクシャルであることがそれを象徴している。

 現在のゲイに対する世間の態度は、'60年代よりもはるかに寛容なものになっている。これは「個人のセクシャリティは生き方の問題」という認識が、広く一般的なものになったからだろう。誰も他人の「生き方」に口出しは出来ない。一過性のファッションとは違うのだ。

(原題:PERFORMANCE)


ホームページ
ホームページへ