趙先生

1998/11/18 ぴあ試写室
妻と愛人の板挟みになってウロウロする趙先生の物語。
男が観るとニヤニヤ。女が観るとイライラ。by K. Hattori


 妻子がありながら若い女と浮気していた趙先生は、逢い引きの現場を妻に踏み込まれて万事休す。ところがこの男、妻と離婚することもできず、浮気相手と別れることもできないまま、ずるずると中途半端な関係を引き延ばしている。妻には「十数年の結婚を無駄にはしない」「愛人とは別れる」「一時の気の迷いだった」「関係を持ったのは弾みだった」と言い訳し、愛人には「お前といると心が安らぐ」「妻とはいずれ別れるつもり」「お前を傷つけるようなことはしない」と二枚舌を使っている。いつまでも続くかに見えた蜜月も、しかし愛人の妊娠で事態は急展開。趙先生はふたりの女の間で、のっぴきならない立場に追いやられてしまう。

 趙先生の優柔不断な態度が滑稽であると同時に、男としてはひどく身につまされる映画です。自分が同じような立場に立たされたら、彼と同じようにただニヤニヤと笑ってノラリクラリとしているかもしれません。このだらしなさ、ふがいなさは、同じような状況になればどんな男でも味わうものなのでしょう。その証拠に、この映画の趙先生は、ワイドショーに出てくる松方弘樹と同じ顔をしています。凍り付いたような笑顔を保ったまま、ひたすら低姿勢で相手の怒りが収まるのを待とうとする態度。卑屈です。人間のクズです。でも、それ以外にどんな態度があり得るというのでしょうか。男はこういうややこしさに巻き込まれるのが嫌で、浮気を躊躇するのかもしれません。(これは僕だけだったりして……。)

 主人公の趙先生は、結局、すごく気の弱い男なのです。愛人が妊娠を告げたとき、子供を産んでほしいとも、中絶してほしいとも言えない弱さを持っている。「君が産むと決めたんなら、僕には何も言えないよ」と、ニヤニヤ笑いながら言うだけ。自分の行為が原因で困った状況に追い込まれているのに、ニヤニヤ笑って相手に何事かを決断させ、それによって責任が回避できるのではないかと思っている。妻に対しても同じ。彼は自分からは、妻に別れ話を持ちかけられないし、別れるつもりもない。ただひたすら「どうするんだい」「僕はどうすればいいんだい」と問いかけるだけ。だらしない男です。かといって、こうした状況でテキパキと女たちを仕切って行く男というのも、今時なかなかいないんでしょうね。

 僕は観ている間中、おかしくてクスクス笑ってたんですが、偶然試写室で一緒になった女性のライターは、あまり面白い映画だとは思わなかったようです。この映画に登場する女性たちは、互いの醜い面をむき出しにして男に決断を迫ります。男が観ると身につまされる場面ですが、女性が観てもあまり愉快ではないのかもしれない。煮え切らない男の態度にも、イライラしそうです。僕は映画を観ていて「明日は我が身」と思ってましたが、女性は考えたくもない状況でしょうね。女性がこの映画を観ればどうしたって女性キャラクターの方に感情移入してしまうから、男性とは映画の見方がまるっきり正反対になってしまうのでしょう。

(原題:趙先生)


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