新宿やくざ狂犬伝
一匹灯

1998/11/10 東映第2試写室
的場浩司扮する一匹狼のアウトローが関西やくざに殴り込み!
主人公がただの疫病神に見えるのはまずい。by K. Hattori


 バブル真っ盛りの'80年代末期。やくざを刺し殺して服役し、刑務所から出た後は住み込みで蕎麦屋の店員をしている主人公・春日洋一は、新宿に古くから縄張りを持つ藤吉組の幹部・元木に目をかけられ、組の食客になる。藤吉組は関西から東京に進出してきた大野組と敵対関係にあり、両者は一色触発の緊張状態。数で勝る大野組は強引な地上げ攻勢で地域とトラブルを起こし、何かと藤吉組を挑発する。いざ抗争が始まれば、自分たちが絶対に有利だという自身が、大野組を居丈高にさせている。やがて大野組は、藤吉組若頭の戸村に圧力をかけ、藤吉組を潰しにかかるのだが……。

 主人公の春日洋一を演じているのは的場浩司。僕はこの主人公が、最後までよくわからなかった。喧嘩っ早くて向こう見ずなこの主人公は、結局自分をかわいがってくれた藤吉組に迷惑をかけただけなのではないだろうか。彼が現れなくても大野組の挑発はエスカレートし、遅かれ早かれ抗争の火蓋は切られたのかもしれないが、映画では洋一がその引き金を引いたようにも見えてしまう。

 元木が「素人にしとくにはもったいない」と洋一をかわいがる気持ちもわかるし、洋一の骨っぽい男ぶりに組長が惚れ込み「俺の杯を受けないか」と誘うのも、話の流れとしてはわからないではない。しかし「俺は元木さんや組長に迷惑をかけたくない」という洋一自身が、その言葉とは裏腹に、組に多大な迷惑をかけていることは間違いないだろう。元木が銃撃された後、洋一が報復に出たことが、結果としては組長や若頭の死を早めたことは確かだと思う。洋一がいなければ、彼らはもう少し長生きできたようにも思える。洋一は結局のところ、藤吉組が抱え込んだトラブルメーカーなのだ。「藤吉組の人間が組織の縛りで動きにくい」とか、「藤吉組の知らないところで大野組の陰謀が着々と進行している」など、最終的には洋一の行動が正当化される何らかの理由付けがあれば、「洋一は結局トラブルメーカー」という悪い印象もずいぶんと和らいだと思う。

 映画の中で一番納得できないのは、若頭の戸村が組長を裏切るに至る経過だ。彼はなぜ、大野組から脅されていることを、組長や元木に相談しなかったのだろうか。もし少しでも相談していれば、この悲劇は避けられた。この点については、脚本の段階で戸村の逃げ道をふさぐ工夫がなさるべきだと思う。

 主人公の春日洋一を演じているのは的場浩司だが、常に凶暴な目をした洋一に、僕はどうしても感情移入できなかったし、彼のいらだちも理解できなかった。なぜこの男が、花屋の娘と親しくなるのか、蕎麦屋の女房が彼に惚れ込むのかも理解できない。凶暴な男がふと見せる弱さや脆さが感じられると、役にふくらみが出たように思う。役者としての的場浩司は演技に大きな幅のある人だと思うのだが、この映画の中では彼の芝居のごく一部しか観られないのが残念だ。洋一の「別の面」を見るには、映画のラストシーンまで待たなければならない。


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